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今日は赤也の様子がおかしい。何処が、と聞かれれば上手くは答えれない。ただ何となくおかしいと思ったんだ。 「赤也」 「っ!?、な、何スか?」 最近、赤也はようやく普通に話してくれる様になった。以前の会話なしで避けられていた状況に比べればかなり進歩した方だと思う。 「体調悪ぃのか?」 「ぜ、全然…平気っス!」 大丈夫ですから、と言って赤也は俺から逃げる様に走り去ってしまった。やっぱ避けられている状況は変わってないようだ。でも会話が出来るようになっただけでも進歩としよう、と心の中で一人思った。 「…何が平気、だよ」 コートのラインテープに躓く赤也。言って直ぐに躓いてんじゃねぇかと溜め息を吐いた。全く危なっかしい。見ていてハラハラする。 「赤也の事かい?」 「幸村か…」 いつの間にか立海テニス部部長が俺の後ろに音もなく立っていた。本当は瞬間移動でもしたのではないかと疑う程に何の気配もなかった。 「やだなぁ、そんなの使えないよ」 「…」 何も考えるな、俺。突っ込んではいけない。もし突っ込んだなら後が恐ろしい事になるだろう。それだけは勘弁だ。 「で、質問に答えてくれるかな?」 「…質問?」 「だから、涼汰が気に掛けているのは赤也の事?」 「さぁ?」 「…二人とも馬鹿だよね」 「あ?」 「何でもないよ」 急がないと練習に遅れるよ、と言い残して幸村は俺に背を向けて歩き出した。 ――気に掛けているのは赤也の事? 当たり前だろ。好き、なんだから。口には出せなかったけど心の中で強く思った。好きなんだよ。切原赤也の事が。どうしようもないくらいに。 「…はぁ」 それから一日はあっという間で。気が付けば練習は終了。現在、部室で着替え中。と言っても部室には雅治と俺しかいないのだけど。幸村と真田は部活についての話し合い。ブン太とジャッカルは早々と着替えてケーキバイキングに行ってしまった。蓮二は柳生と図書室で他校の資料整理。赤也は知らない。練習が終わって着替えないまま、何処かに行ってしまった。 最近俺は赤也に避けられている気がするのは気のせいではないだろう。やっぱり、あのキス事件が未だに尾を引いているのだろうか。でも会話は一応出来ている…。まるで無限ループだ。避けられている、と思っても会話は出来てるから進歩したんだ、と思えばやっぱり避けられている…。自分でも自分が何を言っているのか意味が解らない。 「……はぁ」 知らず知らずの内に出る溜め息。今日で何回溜め息を吐いたのか解らない。俺は相当重症らしい。 「元気ないみたいじゃのぅ」 「あー…そう見える?」 自分では笑って誤魔化したつもりだったけど、俺は上手く笑えてなかったらしい。雅治の顔が一瞬苦しそうに歪んだ。 「涼汰」 ぐい、と引っ張られた腕。そのまま俺は雅治の腕の中。このパターンは情けない事に何度も経験してきた。なのに避けれなかった。雅治の瞳が揺れていたから。 「…ま、さ…治…?」 どうした、という意味で名前を呼んでも返事はない。強く抱き締められる俺の体。雅治から離される事はない。 「…涼汰、俺にしときんしゃい…」 弱々しく呟かれた雅治の声は消えずに俺の耳に届いた。何が、とは聞かなかった、聞けなかった。だけど俺は―――… 「…俺は、「返事はせんでええ」 雅治の声に遮られた俺の言葉。体が離されて、雅治と視線が交わる。 「俺の気持ち、知ってくれとるだけでええから」 その表情は仁王雅治のモノで、次の瞬間、表情は詐欺師のモノに戻る。 「ただ、…少しだけ、いいかのぅ…?」 詐欺師の表情は崩れて仁王雅治の表情に逆戻りした。再び俺は雅治の腕のなかに。キツく抱き締められて苦しいけれど、雅治の腕を振りほどくなんて出来なかった。震えていたから、雅治の体が。抱き締め返すなんて事は出来なかったけれど、雅治の頭をゆっくりと撫でた。 「雅治…ゴメンな…?」 俺の肩口に顔を埋めたまま、大きく頭を左右に振る雅治。 「……ありがと」 そう言えば抱き締められる力が少しだけ強くなった気がした。 ――――ガタンッ 「…っ!?」 (振り返れば)(ラケットを落としたらしい)(赤也がいた)(俺も雅治も困惑していた) |
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