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あれ(俺と赤也のキス事件)から何となく俺達はギクシャクしている。テニス部で食べる昼食の時は無言。部活でも無言。このままではプレーにも影響が出てしまう、と考えた俺は一度だけ、勇気を出して挨拶したのに、 「…あ、赤也、おは「!」 くるり、と赤也は背を向けて走り出した。その行動で俺がに嫌われている事は明白で。ズキズキと痛む心臓を抱えて屋上で今日の授業全てサボる事を決めた。 「……はぁ」 「溜め息は幸せ逃げるぞぃ」 「…ブン太、か」 赤毛の髪を持つ彼は俺の隣に腰を下ろした。俺はコンクリートの床に背を付ける。つまりは寝転がる状態。 「ブン太もサボり?」 「決まってるだろぃ」 「…どうせ数学なんだろ」 「当たり」 ブン太は数学の時は決まってサボるらしい。俺の場合は気が向かない時にサボる。まぁ、こんなんだから真田に怒鳴られるのだが。程々にしなくてはいけないけど無理だ。授業が面倒だと思うと直ぐに抜け出してしまう。 「涼汰もサボりだろぃ?」 「当たり前。自由奔放がモットーなの」 真田みたいに型に収まるのは好きじゃないから。それ以上は何も言葉を発しなかった。ただ二人の視線は青空に。遠くの方で授業開始のチャイムが聞こえる。 「…涼汰?」 「んー…?」 「何かあったのか?」 赤也と、と付け加えられて心臓がドキリとはね上がった。それと同時に今朝の避けられた出来事が鮮明に甦って心臓がズキズキと痛み出す。 「別に…何もないよ」 視線は空に向けたまま。隣のブン太は俺を見る。俺はブン太を見る事はない。隣ではブン太が胡散臭そうに俺を見ていると簡単に予想出来るから。 「涼汰って嘘つくの下手だよな」 「はぁ?」 勢いよく起き上がってブン太を見つめた。いや、確かに嘘付いてたけど。図星なんだけど。って言うか何処で解ったんだ?それらしい事は何一つ言っていないのに。 「やっぱ、嘘ついてるだろぃ」 …やられた。ブン太にカマ掛けられたって事だ。無性に悔しくて、それに引っ掛かった俺が馬鹿らしくて溜め息を一つ吐いた。 「…やりやがったな」 「いーじゃねぇか、このくらい」 いつも飴やってるだろぃ、と何処か気の抜けた声で呟かれた。 「ソレとコレとは別だろーが」 再びの静寂。グランドで体育の笛の音が聞こえる。どうやら、短距離走をしているらしい。短距離走って面倒なんだよな。いや、長距離走も面倒だけど。 「…喧嘩したのか?」 急にブン太に話を戻されて返答に困った。喧嘩、ねぇ…。真田とじゃないんだし、そんな事はない。真田との喧嘩は日常茶飯事のようにあるが、他の部員達とは滅多にない。俺が喧嘩という面倒事が嫌いなだけなんだが。 「喧嘩なんてしてないよ」 そう、喧嘩は、していない。ただの事故でキスして、自分の気持ちに気付いて、現在気まずいです、なんて簡単には言えない。相手が普通の女だったらちゃんと相談出来るんだろうが、赤也は男だ。こんな事を軽々しく言ってブン太に軽蔑されたくなかった。これ以上聞かないでくれ、という意味を込めて寝返りをうつ。ブン太には背を向けて。 「……もしかして、さ、涼汰って」 ポツリ、と呟かれたブン太の言葉は俺に届いていた。中々先を言おうとしないブン太に嫌気が差して体を反対に向けた。つまりは、ブン太と向き合う状態。二人の視線が交わる。 「赤也の事、好き、なんじゃねぇの?」 (風の音が)(やけに大きく聞こえた)(五月蝿いのは)(風の音なんかよりも俺の心臓) |
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