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ちゃんと解ってる。これは事故だ、と。なのに赤也の頬は赤く染まっていて、薄暗くてもよく解った。 「えー…っと」 何で赤也は俯いてしまったのだろうか。もしかして怒ってるのかもしれない。事故とは言えども男とキスしてしまったのだから。もしも、赤也に嫌われてしまったらどうしよう、と考えて胸の中がチクリと痛む。こんな事考えるのって赤也が好きみたいじゃねぇか、と心の中で自分を叱咤する。そーいえば赤也の唇柔らかかったなぁ、なんて場に合わない事を考えてしまった。とりあえず、この状況をどうしよう。赤也は俯いたまま顔を上げる気配はない。 「………」 「………」 何か、気まずい。不意に静寂を壊す音楽に二人とも驚いた。音源は俺の鞄から。 「あ…俺の着メロ」 携帯を取り出せばディスプレイには仁王雅治の文字。 「…もしもし」 《涼汰、まだかのぅ?》 そういえば雅治を校門に待たせていた事を思い出した。 「もうちょっと待ってて、直ぐ行くから」 無機質な音が通話の終了を告げる。携帯を閉じるとちらり、と赤也を見た。まだ顔は俯いたまま。 「雅治待たせてるから…行くぞ」 赤也の手を引いて立たせようとして、止めた。一瞬だったけれど赤也がビクッと驚いた反応をしたのを見てしまったから。 「…さっきは悪かった、先行く」 校門に雅治と一緒にいるから、と告げて俺の背中の後ろにいる赤也も見ずに早足で歩き出した。 何なんだよ、このモヤモヤ感は。何なんだよ、この苛々する気持ちは。何故こんなにズキズキと痛むのだろうか。苦しい、心臓が。痛い、心が。あぁ、やっと解った。このモヤモヤしているのも、苛々しているのも、苦しさも、痛みも。 「…好き、なんだ、な」 俺は赤也を好きなんだ。でも俺は赤也に嫌われているのだろう。大体、男が好きって可笑しいだろ、と心の中で悪態を吐いても好きだ、という気持ちは消えなかった。それどころか益々大きくなっている気がするのは気のせいではないだろう。 「…今さら、どうしろってんだよ…」 こんな気持ちは伝えられない。伝えたら今の関係は壊れてしまうだろう、部活の先輩と後輩という関係は。それ以前に軽蔑されるかもしれない。男が男を好きなんて。どうすればよいのか解らなくなって、考える事を止めた。この気持ちは閉まっておこう。それが一番いいんだ。赤也の為にも、俺の為にも。 「お待たせ、雅治」 「遅いナリ」 「悪いな」 「赤也は一緒じゃないんか?」 赤也、名前が出ただけで心臓が五月蝿く鳴るのは好きだと認めてしまったからなのだろうか。本当に苦しい。 「あぁ…多分まだ寝ぼけてんだろ」 故意にキスしてしまって気まずいです、なんて絶対に言えない。雅治は気付いたのか知らないけど何も追求しなかった。 (ズキズキ痛むのは知らないふりを)(その5分後に、)(赤也が来たけれど)(帰り道、俺と赤也は話さなかった) |
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