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「……疲れた」 今日の練習試合は当然の様に俺達立海の全勝。王者に負けは許されない、其れが立海の掟だから。 「……だるい」 「厘財!」 ぶつくさと愚痴を溢し続けながら歩く俺を遂に真田が怒鳴った。相変わらず煩い怒鳴り声だと改めて思い呆れる。立海の生徒指導の先生でもあんなに煩い声は張り上げないだろう。 「久々に集中したから…疲れてんだ、よ」 話している間にも眠気は俺にのし掛かって睡魔に負けそうになる。瞼が重い。体がだるい。頭がぼーっとする。もうちょっと練習量増やそうか等と考える。 「いつもは集中しとらんのか!」 「五月蝿い、真田の馬鹿…」 ぎゃあぎゃあと真田が怒鳴り散らすけど、それも耳に入らない程に眠い。いつもの練習ならこれくらい何ともないのに今日に限っておかしい。 「…涼汰先輩、大丈夫っスか?」 「おう…赤也は優しいなー」 俺より身長の低い赤也の頭に手を乗せて、どっかの馬鹿とは違って、と付け加えれば余計に五月蝿い真田。本当に耳が痛い。頭に響くから止めてくれ。 「二人とも、」 来たよ、悪魔の囁き。悪魔イコール我が立海テニス部の部長様。逆らうとすごーく恐ろしい。 「あと少しでバスだから我慢しようか」 直ぐに口を閉じた俺と真田。逆らうと余計に恐ろしい目に合うから。何がって聞く奴は勇気があると思う。生憎だが俺にはそんな勇気もないし、何より面倒だ。黙々と歩く。ブン太はガムを噛みながら。ジャッカルは柳生と会話しながら。雅治は何かを考えている表情をしている。幸村や真田、蓮二は今後の練習や試合について話し合っている。赤也は俺の隣を特に話す事もなく、ただ歩いている。 「やっと…着いた…」 真っ先にバスに乗り込み、荷物を下ろすと席に着いた。やっと座る事が出来た。先程までの足の疲労から少しだけ解放されて声が口から漏れる。 「あ゛ー…」 「涼汰、オッサンみたいだぞ」 「五月蝿せージャッカル、俺はまだ15歳だっつーの…」 座ったから解らないが下がる瞼。意識は眠気に連れ去られて。頭に霧が掛かったかのようにぼーっとする。本格的に眠くて眠気に耐えられない。 「赤也ー…」 「何スか?」 「…学校、着いたら…起こし、て…」 任せて下さい、と元気な隣に座っている赤也の返事を聞いたのを最後に俺の瞼は完全に閉じきった。 「寝ちまったな」 「いくら何でも早すぎだろぃ」 「仕方ない、涼汰にとっては久々の試合だ」 「何か柳先輩って涼汰先輩に甘くないっスか?」 「参謀は涼汰に貸しが沢山あるからのぅ」 「貸し?」 「データを取る手伝いだ」 「あー、何か今日の試合もそんな事言ってましたね」 「涼汰の判断力、瞬発力、観察力は立海一だからね」 「幸村が認めるって事は、涼汰は凄いヤツなんだよ」 「ジャッカル、勘違いしないでくれる?判断力、瞬発力、観察力《は》って言ったんだよ」 「うむ、もう少し練習熱心だと良いのだが」 「涼汰の挑発に乗らされてる真田には言われたくないなぁ」 ニコニコと笑顔で真田の精神にダメージを与えた幸村。副部長の真田にとっては部長の幸村からのこの一言は大ダメージだった。 「俺、寝ようかな…」 「…じゃ、俺も」 ジャッカルを先頭に次々と我先にと眠りに付く立海選手達。勿論悪魔から逃れたいからだ。 「寝たら罰ゲームね?」 それを予想していたかのように幸村に先手を打たれた立海選手達は起きる事を余儀なくされてしまった。こんなやり取りを涼汰は知らない。 夢って解ってるんだ、ちゃんと。だってこの映像は見た事があるのだから。音声はあまりない。夢だからなのか知らないけれど。懐かしいのは確かだ。 「い――、涼汰はテ――が――る―ら」 「ぼ―も――は、―に――――だ」 「だ――、――し―う?」 「『いつか試合しよう」』 『―――た―?』 『―、お――よ―?』 『お――や――ろ―?』 『―な――で―』 『うゎああぁああぁぁあ!!!』 バチリ、と映像と音声が途切れて、視界にはバスの天井が写る。心臓がドクドクと不規則に、頭はガンガンと響く。何で今、と心の中で悪態を付く。 ヒューヒューと鳴る喉に手を当てて治まれと念じても変化はない。窓の外を見れば学校の近くの景色が移り変わっている。もう少し我慢すればいい。もう少しだけ。何かを別の事で気を紛らわそうと考えて辺りを見回した。 相変わらずお菓子を食べているブン太。それを注意しているジャッカル。柳生と蓮二は読書をしていて、雅治は顔を伏せているのを見ると寝ているのだろう。幸村と真田は他校の話をしていた。隣に座っている赤也は任せて下さいと言ったにも関わらず、夢の中だ。 このバスの中で薬を服用した方がよいのかもしれないが、そんな事をして誰かに気付かれでもしたら嫌だ。発作の事は出来るだけ知られたくない。赤也と雅治には知られてしまったけれど。 (あと少し、)(あと少しなんだ)(早く着いてくれよ)(早く、) |
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