青空から始まる恋 | ナノ


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面倒くさい、なんてこんな場面で言ったなら間違いなく怒られるので開きかけた口を閉じた。今日は練習試合です。


「あーつーいー…」

何この日光の暴力。何この暑さ。

「…死んでしまう」
「五月蝿い!」

案の定、真田に怒られた。まぁ、殴られなかっただけマシかもしれないが俺に不快感が募ったのは確かだ。他人に怒鳴られていい気なんてしない。

「だってよー…」
「時と場所を考えんか!!」

まぁ真田の言う事もごもっともで。現在、整列の真っ最中。当然相手選手も困っている。色々あって始まった練習試合。これまでの練習試合は全く出番無し。いい加減に試合をしたい。珍しく俺の興味が出たのを確認した柳がオーダーを教えてくれた。

「涼汰はD1だな」
「って事はブン太と?」
「あぁ」
「サンキューな蓮二」

試合出させてくれて、と付け加えれば、そろそろ俺の興味が出て来るのが解ってたみたいだった。

「流石参謀」

クスクスと笑いながらコートに入ったら真田にまた怒鳴られた。真田は本当に面倒くさい奴だと思う。どんな形でコートに入ろうが俺の勝手だろう?

「よろしく、ブン太」
「俺と涼汰が組むのって久しぶりだな」
「言われてみれば」

中二くらいまでは結構組んだ記憶があるのに中三になると其れがあまりない。中三になって俺はシングルスを、ブン太はジャッカルとのダブルスを中心としてきたから。

「久々に俺の天才妙技見せてやるよぃ」
「それは楽しみ」




コートに響く試合開始の審判の声。今までの暑さや気だるさが消えて、一気に頭の中が冷える。サーブは相手から。ピクリ、と相手の腕が動いた。

「(初球からスピードボール、か)」

予測した通りに相手のファーストサーブは速かった。ギリギリにサービスコートに入ると勢いを失わずにバウンドする。いきなりスピードのあるサービスを打たれたのなら不意を突かれたかもしれないが、残念な事に俺は違う。ちゃんと予測していたのだから。素早くボールのコースに入るとラケットを振る。そうすれば勢いは失われずに相手コートに帰ったボール。当然、俺の目の前にいる前衛は反応出来るはずもなく、ストレートを抜かれた。

「なっ…!」

《0−15》

コールが響く。

「さぁ、続きしますか」

それからは簡単に事が運んだ。ブン太は好調の様子で妙技を次々と連発して、一方の俺は相手を混乱させてポイントを奪う。

「妙技綱渡り…どう、天才的?」
「Down(ダウン)…」

相手の表情が戸惑いに変わる。その瞬間がとてつもなく快感を俺に与える。最高に楽しい。こんな俺はサディストなのだろうかと自分で心配してしまう。

「ククッ…」

もっと困惑して戸惑って。楽しいから。




「…出たな」
「何がっスか?」

立海のベンチで試合を見ていたジャッカルがぽつり、と呟いた。その言葉を耳に拾った赤也が聞き返す。

「涼汰は普段興味が持てない事はしない主義だが、一度興味を持てば抜群の集中力を発揮する」
「で、付いた名前が"立海の司令塔"」
「司令塔?」
「見てれば解るぜよ」

仁王の言葉に促されて赤也は再びコートに視線を戻した。繰り広げられる白熱した試合。というよりは、立海が圧倒的に実力で有利なのだが。




「…ブン太、ストレート」
「おぅ」

涼汰の発した言葉通りにボールは進む。ブン太が涼汰の指示を受けて未然に動いていたので簡単にポイントが取れた。

「そのままの位置にいて」

そうすれば自ずとボールはブン太のいる場所に打たれる。そしてそのチャンスボールをブン太の妙技で確実にポイントを奪う。

「妙技、鉄柱当て」




「…凄い」
「本来涼汰はダブルス向きだが、シングルス向きでもある」
「本人はカウンターパンチャーって言ってたけど…」
「どう見ても、オールラウンダーじゃき」




《ウォンバイ立海6−0》

「…あつ」
「ほれ、」
「サンキュー」

雅治からドリンクを受け取った。それにしても暑い。俺にとっては暑くて動く事も、寒くて厚着をする事さえも面倒だから。つまりは、暑い日も寒い日も嫌いって事。

「涼汰先輩、」

俺の名前を呼んだ声に振り返れば赤也が俺のタオルを持っていた。

「悪いな、赤也、サンキュー」
「涼汰、」

蓮二がノートを持って俺の名前を呼んだのでいつもの様に対戦相手のプレースタイルや癖を簡潔に告げる。

「あぁ、後衛がクロスに打つ時に僅かだがラケットが下がる、前衛はポーチに出る時にブン太の足元見てた。だよな、ブン太?」
「おぅ」
「ふむ…そうか、悪いな」
「気にすんな」



(涼汰先輩、)(どーした赤也?)(今度、先輩のプレースタイル教えて下さいっス )(え、面倒だから嫌だ)(…)


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