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案の定、ブン太がご立腹だった。 「遅い!」 「はい…」 「腹減ってたんだぞぃ!」 「…はい」 「我慢してたのにお前等がテニスしてたとかないだろぃ!」 「…返す御言葉も有りません」 「丸井、その辺にしときんしゃい」 見かねた雅治がブン太を宥めてくれた。 「急いで飯作るから、お前等待ってて」 ジャッカルや雅治をリビングに座らせると晩飯を作る為に早足でキッチンに入った。 「涼汰先輩、俺も手伝うっス!」 「悪いな、赤也」 「いえ、俺も遅れましたし」 赤也に料理の下準備をお願いして、俺は調理を初める。とにかく急がなくては。早くしないと空腹のブン太が暴れだしそうだ。 「先輩ー、魚の鱗ってどうやって取るんですかー?」 「包丁で、こうやって…」 「おぉ!」 魚の鱗を取ったくらいで目をキラキラさせている赤也を見て可愛いと思ってしまう。 20分後、 「ケーキだ!」 ブン太はテーブルの上にあるケーキに目線が釘付けである。念のために駅前のお菓子屋で買っておいて良かった、と心から安堵した。どうやらケーキでブン太の悪かった機嫌は完璧に治った様子だ。 「和食って美味しいな」 「涼汰の作る飯は旨いぜよ」 「ケーキ、ケーキ」 「あ!仁王先輩、それ俺の肉ー!」 「気にすんじゃなか」 「涼汰のケーキ貰っていいー?」 「ジャッカル先輩、肉下さいっス 」 「あ、おい!」 「なぁ、涼汰ー?」 「丸井先輩の肉も貰いっス!」 うん、賑やか。賑やか過ぎて五月蝿い。ジャッカルは和食に感動してるし、ブン太はケーキのみ食べている。雅治は人のおかずに手をだして、赤也は凄い早さで食べている。 「風呂入るか」 「そろそろか」 「俺が一番に入るっス!」 「バカ赤也、先輩に譲れよぃ」 「涼汰、一緒に入るかのぅ?」 「な、何言ってんスか、仁王先輩!」 「赤也はナニを想像しとんかのぅ?」 「下ネタよせよぃ」 「お前等は…」 うん、賑やか。賑やか過ぎて五月蝿い。さっきの夕食と同じ展開だ。 「解ったから、先にジャッカルな」 「ジャッカルかよぃ」 「この中で一番普通で地味だから」 ジャッカルは少しだけショックを受けている様子だったけれど風呂場へと早足に消えて行った。残った4人でゲームをする事になって、ジャッカルの次に雅治が、その次にブン太、赤也、俺の順番で風呂に入った。 「(無駄に疲れたなー…)」 シャワーを浴びながら思った。一人暮らしを始めて、こんなに賑やかなのは初めてかもしれない。風呂場にいてもブン太達の声は響いている。 「(明日絶対に俺が管理人さんに注意されるんだろうなぁ)」 明日の事を考えて少し憂鬱になったけれど、何だかんだ言っても俺が今を一番楽しんでいるのかもしれない。こんなに賑やかで、こんなに楽しいのは久々だから。シャワーから流れる温水を止めると、今まで聞こえていた4人の騒ぎ声が聞こえなくなっていた。若干早足でリビングに戻ると見たのは寝そべっている4人の姿で。赤也とジャッカルは床に、ブン太はジャッカルの腹を枕代わりにしている。雅治はソファーに座ってコックリコックリと船を漕いでいる。 「…ったく」 あんなに騒いでるから疲れて寝るんだよ、と愚痴を溢しながら毛布を取って最初に雅治に掛け、ブン太、ジャッカル、赤也にも毛布を掛ける。 「んっ…涼汰、先輩?」 あ。やべ、起こしてしまった。 「…悪い、目ぇ覚めた?」 「んー…平気っス」 ゴシゴシと左目を擦る赤也の左手。 「擦んな、赤くなる」 自分の右手で目を擦っている赤也の左手を掴んで止めた。俺の体温と赤也の体温とが触れ合う。赤也の目は眠いのか虚ろだ。 「…涼汰…せん、ぱ」 「わっ…!」 どさり、と力の抜けた赤也によって倒れる二人の体。俺の胸板の上にいるのは紛れもなく赤也で。お互いの距離が急激に縮まった。 「…赤也、?」 依然として俺の胸板から頭を上げようとしない赤也に問い掛けても返事は返っては来ない。それどころか寝息が上から聞こえたので溜め息を一つ吐いて諦めた。 赤也の背に手を回せばすっぽりと腕の中に収まった小さな赤也の体。腕を回したまま体を反転させた。つまりは赤也に覆い被さる様な体勢。 「…無防備、だな」 小さく呟いて焦った。俺は、今、何を、言った?普通の女に言うのなら解る。でも実際に言ったのは男の赤也。自分が解らなくなって考える事を止めた。赤也の上から退いて毛布を掛けてやると、リビングの電気を消した。 「…おやすみ」 俺はまだ眠らない。する事があるから。行かないといけない場所があるから。 (外で見たのは輝く星)(俺は墓の前)(そして視界は揺らぐ)(零れた涙なんて知らない) |
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