青空から始まる恋 | ナノ


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「んーと…玉葱(たまねぎ)と魚、もやしと」

適当に安売りになっている食料品を次々とカートに積んで行く。今日はどうやら野菜が中心的に安売りのようだ。

「ちょっ、こんなに…」
「いーの、冷蔵庫の中身の補給」

驚いている赤也とジャッカルは無視してカートを移動させる。食後のデザートないとブン太が五月蝿そうだな、とプリンやゼリーを詰め込む。

「お会計6385円になります」

財布から一万円札を出して渡せばお釣として帰ってきた3615円。

「ありがとうございました」

機械の様に感情の込もっていない店員の声を聞きながら店を出た。




買い物袋を提げて帰りの途中、聞き慣れた音が近くから聞こえた。それは毎回のように部活で聞く音で。

「ちょっと寄って行こうぜ」
「ちょっ…晩飯は!?」
「じゃあ、ジャッカルは先に帰ってていいよ」

赤也はどうする、と聞けば行く、と元気に返してくれた。買い物袋をジャッカルの手に無理矢理握らせると赤也の手を引いて走り出す。




「ねぇ、俺達も混ぜてくれない?」

来たのはストリートテニスのコートで。コートを使用していた男性は返事一つで快く貸してくれた。

「折角だから、ダブルスやろうか」
「えっ、いいんスか?」
「練習ではあんまり組んでないから。な?」
「やります!」

赤也との初めてのダブルス。練習では組んだ事が一度もない為にいい機会だとは思う。

「なぁ、試合しないか?」
「いいよ」

そこら辺にいた人に適当に声を掛けて始まった試合。公式試合ではないので審判はいない為にコールは自分達でしなくてはならない。

「フィッチ?」
「ラフ」
「残念、スムースだ、サーブを貰うよ」

何度かボールをコートに付いて構える。相手の陣形は普通に前衛と後衛。俺達は二人とも後衛。前衛にボールを取られると厄介な事になるから、気を付けなければならない。

「はぁっ!」

サーブを打てば相手は俺と赤也の間を狙ってきた
どうやらテニス経験者のようだ。

「俺が取ります!」

サーブを打って体勢の崩れた俺を赤也がフォローしてくれた。角度を付けてコーナーに返せば相手も角度を付けて返球する。

「赤也、前出ろ」
「へ!?」

赤也は俺の言葉に意味が解らないという表情を一瞬したが、言葉通りに前に出た。それを見た上で、俺は前衛にボールを返す。

「貰った!」

相手の前衛が嬉しそうに叫んでボレーをしたけど、生憎打ったら場所には赤也がいる。

「甘いっスよ」

ボレーを難なく返球した赤也。

「15ー0…だな」

それからは試合は事が楽に進んだ。いつもの様に相手の動きからコース判断して走ればポイントは取れる。

「ストレート来るぞ」
「はいっス!」

基本的に俺は1ゲームに2・3回しか赤也に指示を出さない。頻繁に指示を出していたら赤也も飽きるだろうし、何よりも自分の力でプレーしたいと思うだろうから。




「ゲームセット切原・厘財6-0」

はじめての赤也とのダブルスは俺達の圧勝で幕を閉じた。意外にも赤也との試合は指示を出しやすくてやり易かった。純粋である赤也の動きは見ていて楽しかったという感想が事実だ。

「お前ら強いな」
「どーも、そっちも強かったよ」
「よく言うよ、1ゲームも取らせてくれなかったくせに」

相手は苦笑いを溢した。例え草試合でも負けは許されないのが立海の掟で。だからこそ、負けるわけにはいかなかった。

「!あ、やべ」

すっかりテニスに夢中で本来の目的を忘れてた。俺達がスーパーに行ったのは晩飯の材料調達の為で。本来なら直ぐに帰って晩飯を作らなくてはいけなかったのに。

「赤也、帰んぞ!」
「あ、はい!」
「ラケット貸してくれて、サンキューな!」

ラケットを貸してくれた人にお礼を言うとテニスコートから俺と赤也は急いで走り去る。ジャッカルに荷物を持たせて雅治とブン太に留守番させてたのをすっかり忘れてた。




(走る、走る)(俺と赤也)(急げ)(夕日に溶ける)



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