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幸村に赤也の事を話した後、俺は一人で部室に戻って来た。部室に入れば赤也はちゃんと待ってくれていて、まだ部員は戻っていない。 「赤也ー、帰ろ」 「!涼汰先輩」 「急げよ、真田来たら五月蝿いから」 急いで荷物を纏める俺達。二人で部室を出ればタイミングが悪く、真田とばったり会ってしまった。相変わらず仏頂面の真田は俺達の前から動かずに、俺と赤也を睨んでいる。 「…行くぞ」 ぐい、と赤也の手を掴んで真田の前から歩み出した。 「っお疲れ様でした…!」 赤也は律儀に挨拶をしている。真田は嫌いだ。厳し過ぎる。今回は赤也が部活に途中から参加出来なかった理由がちゃんとあるのに赤也が悪いとばかり思っている。何も解っていない。何も解っていないんだ、真田は。…何で俺は赤也の為に怒っているのだろうか。ちょっと前までは切原赤也は誰よりも何よりも苦手だったのに。本当に何故なのだろうか。不思議だ。 「涼汰先輩、あの、手…」 赤也に声を掛けられてまだ手を掴んだまま歩いていたという事に気付いた。 「あぁ…悪い」 掴んでいた赤也の手を離す。どこか名残惜しいのは気のせいだ、と思い込む事にした。それからは他愛もない話。クラスの事、テニスの事、勉強の事。 「涼汰先輩って一人暮らしなんスか!?」 「そー、駅前のマンション」 「駅前ってお金凄いかかるんじゃ…」 「親が払ったからなー、よく解んないや」 まぁ、あの人達にしてみれば俺を見たくないから一人暮らしする事を許可したんだろうけど。 「今度遊びに来いよ。雅治とかブン太とか誘ってさ」 そう言えば赤也は行くと即答してくれた。そんな赤也に心が緩む。 「あ、俺右っス」 「そっか、じゃあな」 T字路で赤也は右、俺は左に別れた。そっと少しだけ後ろを振り返れば、赤也が俺を見ていた。 「赤也、また明日、な」 少し大きめの声で伝えれば嬉しそうに笑った赤也 背を向けて歩き出す。沈みかけた夕日が綺麗だった。 (例えるなら、そう)(赤也の充血した瞳のように)(赤い) |
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