青空から始まる恋 | ナノ


07




「すみませんでした!!」

今日は残りが5分しかないからもう帰っていい、と幸村に言われて俺達は部室で着替えていた。着替え様としない赤也を見れば突然の謝罪。

「俺のせいで…本当にすいませんでした!!」

赤也に頭を勢いよく下げられた。突然の事に驚き戸惑いつつも、平然を装って赤也に言葉を返す。

「や、いーよ」
「でも…!」
「俺が良いって言ってんだから、いいの」
「だって真田副部長にも…!」

俺がどんなに「いい」と言っても赤也は謝り続ける。仕舞いには「どんな罰でも受けます!」。はぁ、と小さく溜め息を一つすると赤也と向き合う。どうせ謝り続けるのだから罰を一つ与えよう。

「じゃ、今日一緒に帰ろ」
「…へ?」
「だから、一緒に帰ろうって。嫌か?」
「嫌じゃないっスけど…そんだけでいいんスか?」
「いーの」

拍子抜けした様な顔をしている赤也を放っておいて俺は着替え始めた。早く着替えないと部員が来るぞ、と急かせば着替え始めた赤也。


「涼汰」


突然呼ばれた俺の名前。呼んだのは立海テニス部の部長である幸村で。何の用だ、と問えばドアから顔を覗かせて幸村は俺を手招きする。

「はいはい…」

幸村の所に行こうとすれば不安そうな顔をしている赤也と目が合った。恐らく自分のせいで俺が怒られるのではないか、とでも考えているのだろう。

「んな顔すんなって…この前幸村の制服に悪戯したからその事だよ」

ぽん、と赤也の頭に手を乗せて幸村の所に向かった。…今思えばとんでもない嘘を付いてしまった。あの幸村の制服に悪戯なんて。想像するだけで恐ろしい。




「…で?」
「ちょっとね」

着いて来て、と幸村は俺の前を歩き出す。俺も幸村の後ろを歩き出した。テニスコートを見れば部員達は片付けを始めている。夕日の赤がテニスコートを照らしていて綺麗だと思った。

「…此所でいいかな」

連れて来られたのは体育倉庫。使われていない道具が埃を被っていて臭い。

「さて、聞かせてもらおうか」
「…何が」
「涼汰と赤也が遅れた理由」
「だから、タオルが「そんな嘘じゃなくて、本当の理由だよ」

幸村の正に瞳は真剣そのもので。真っ直ぐに俺を見ている。その視線に耐えきれず俺は視線を地面に落とした。

「…」

幸村は部長だから部内の事を知る義務がある。俺は只の部員だから話さなくてはならない。だが、話してもよいのだろうか。赤也はあの時、誰にも、と言った。誰にも言わないでほしい、と言う筈だったのは解っていた。多分今までも殴られていたに赤也。ずっと我慢して耐えてきた事を俺が壊していいのか躊躇う。

「涼汰、言っておくけど、俺は真実を知って騒ぎ立てる事なんてしないよ」

其れは正論だと思う。部長である幸村が部内に混乱を招く事は絶対にない。幸村にとってのデメリットが多すぎるから。幸村は立海大テニス部の部長で、俺は只の部員で、幸村を信頼していない訳ではない。むしろ信頼している。


…でも、

「涼汰の心配している様な事にはさせないから言ってほしい」

そんなに真剣な瞳で。そんなに真剣な声で。そんなに真っ直ぐに約束なんてされたら断れないじゃないか。

「…実、は」

ぽつりぽつりと呟く様に話し出した。赤也に対する罪悪感が無いと言えば嘘になる。ただ、この場においては幸村が優先だった。




「…そうか」

俺が真実を話し終わると幸村はぽつり、と呟いた。その言葉からは部長としての後悔、一人のテニスプレーヤーとしての憤怒などの感情が見え隠れしている。

「誰にも言うな、本人にも、だ」
「解ってるよ、話してくれてありがとう」
「…帰る」

珍しく幸村にお礼なんて言われたからむず痒くて、俺は逃げる様にその場から歩き出した。




(嘘を付いた)(言い訳の嘘)(赤也への嘘)(今日で2つ)(まだ沢山あるけど)



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