もうすぐ夜が明けそうだ、とぼんやりとした頭で考えた。真っ暗だったはずの障子の外は次第に明るんだ色に変化している。障子の外に存在する空の事を考えていたのだが、すぐに俺の意識は彼によって引き戻された。

「考え事なんて随分と余裕ですねィ」
「っひ、あ!」

ぐ、と強く鈴口を押されて俺の口から女性みたいな悲鳴が溢れた。普段なら恥ずかしがってしまうような状況であるが、今はそんな羞恥の感情さえ働かない。それくらいにまで俺の脳味噌は快感で溶けていた。

「…っも、…そう、ご…っ」

ぐちゅり、と俺の腹の上に放たれた自分の白濁が総悟の腹との間で厭らしい音をたてた。何度放たれたか解らないそれは酷く官能的で生温かい。

「っは…んぅ…」
「……っ春樹さん、」

総悟が動く度に俺は小さく吐息を漏らす。もう何度達したのかさえ解らない。それくらい長い時間俺達は身体を重ねたままだった。幾度にも渡る行為に疲れきっているはずの俺の身体は、総悟から与えられる快感に簡単に反応してしまう。

「んぁ…っあ、…ふ、あッ!」
「っく…」

突然彼の動きが激しくなったのと同時に、小さく総悟が呻いたかと思うと下腹部に自分の物ではない熱が広がった。俺に覆い被さっていた総悟が俺に体重を預ける形で倒れ込む。俺の身体も総悟の身体も、どちらの物とも解らない白濁と汗に濡れてしまっていた。お互いの荒い吐息だけが部屋に響く。

「…まだ、足りやせん」
「っえ、ちょっ…まっ…!ひぁ、」

総悟が俺から身体を離したかと思うと、彼は再び動き始めた。またもや卑猥な水音が俺の聴覚を支配する。達したばかりで感覚が敏感になっている俺はただひたすら総悟から与えられる快感を拒む事なく喘ぐだけである。

「っも…ぁ…なんで、…そんなに元気なんだ、よ…んっ…!」
「は、…盛りの十代ですからねィ…っ」

ぐ、と総悟が奥深くに入って来て、俺は息が止まるような快感に襲われた。十代男子の性欲の多さは確かに解るが、俺が十代の頃は今の彼ほど元気ではなかった気がするのだが。今では二十代になってしまった俺は、彼の性欲に着いていけない。ただ揺さぶられるだけである。

「あっ、あァ…ぁん、ひっあ…!」
「く…春樹さん…名前、呼んでくだせェ」
「っん、あッ…そ、ご…そうごぉ…っふぁ」

俺が彼の名前を喘ぎ声混じりに紡ぐと、総悟は優しく唇を重ねてくれた。散々壊すように突き上げておきながら、総悟は今みたいに突然優しくするんだ。総悟は、ずるい。

「もっ…総悟…だめぇ…っ!」
「っは…待ってくだせェ…俺も、もう少し…っ」

揺れる視界で見た総悟は切なそうに顔を歪めていた。こんな事を言うと女みたいだと言われるかもしれないけれど、自分の中で総悟が気持ち良くなってくれているという事実が酷く嬉しかった。

「は、…すげェ、締め付けでさァ」
「っ馬鹿…ぁッ…言うな、んぁ…ひっ」
「っ…春樹さ、」
「ぁっ、そう、ご…っそうご…もっ…ふ、あぁ!」

達する直前の快感に耐えきれず、総悟の背中にしがみつくと彼は力強く俺を抱き締めてくれた。俺の鼻を掠める彼の匂いに心底安堵する。総悟から与えられる息の詰まるような快感に、再び俺は白濁を放って彼自身を強く締め付けた。




額に柔らかい感触を受けて、俺はゆっくりと瞼を開く。先程まで熱く火照っていた自分の身体は明け方の空気にすっかりと冷やされてしまっていた。寒さに身を捩ると、総悟が俺の身体を引き寄せてくれた。やっぱり総悟はずるい。そんな事を考えながらも俺は総悟に身体を預けた。

「あ。後処理ならしておきましたんで」
「ありがとう…って恥ずかしいから自分でやるって毎回言ってるのに!」
「あの後すぐに意識飛ばした奴が何言ってるんでさァ」
「う…。…腰が痛い、今日絶対に仕事出来ない」
「そりゃあ大変ですねィ」
「誰の所為だと思ってんだよ、この馬鹿」
「へェ…あんなにあんあん鳴いてたのは誰でさァ」

にやり、と総悟が意地の悪い笑みを浮かべて俺を見た。何も言い返せない事が悔しかったが、今は羞恥の感情の方が大きい。顔に熱が集めるのが自分でも解る。そんな俺を見て総悟は面白そうに口元を緩めた。そんな顔でも格好良いと思ってしまうのは、やはり俺が彼に惚れてしまっているからなのだろう。恥ずかしさを抑えながら総悟の首元に腕を回して抱き着くと、彼はゆっくりと抱きしめ返してくれた。ああ、やっぱり好きだな、なんて実感しながらも俺は彼の熱に包まれて瞼を閉じた。




愛し恋しと鵺が鳴く