ふう、と口から紫煙を吐き出した。窓から見えるのは真っ暗な宇宙。遠くの方に星の明かりがちらついているが、微かにしか見えないそれは酷く俺を不安にさせた。

「…」

現在この部屋に居るのは俺一人のみである。相部屋の友人は俺の機嫌が悪い事を察知して俺を一人にしてくれたらしい。神威が地球という星に旅立ってしまってから早一週間だ。あいつは未だに帰って来ない。

「きっと…明日も帰って来ないんだろうな」

ぽつり、と呟いた言葉は誰かの耳に届く事なく空気に溶けて消えた。浮気したら殺しちゃうぞ、とふざけたような神威の言葉が脳裏に甦った。心臓がぎゅっと誰かに握られたみたいに痛む。

「地球、か」

噂では青く美しい星だと聞いた。それが本当なのか解らないが、今頃神威はその星で何をしているのだろうか。また無駄な殺しをして彼の部下である阿武兎を困らせていないと良いのだけれど。

「……」

ふう、と無意識の内に再び口から溜め息が溢れた。手にしていた煙草は殆んど灰になってしまっていた。ああ、勿体ない事をした、なんて考えつつも俺は其れを灰皿へと押し付ける。そういえば神威は俺が煙草を吸うのを酷く嫌ったっけ。なんでも俺が口が寂しくなった時に吸う煙草が気に入らないらしい。何だその理由はとその時は思ってしまったのだが、たぶん神威は煙草に軽く嫉妬をしていたのだと今では理解出来る。

「変なとこで可愛いんだよなあ…」

ふふ、と思わず笑みが溢れた。尤も神威なら口が寂しいなら殺し合いをしようと言わんばかりの性格であるが、それでも俺は彼が可愛かった。本人の目の前でこんな事を言うと途端に彼が殺し合いを吹っ掛けて来そうなので言わないのであるが。

「…神威、」

名前を呼んでも答えてくれる彼は今はいない。早く、神威に会いたい。俺の身体も気持ちも殺意も、充たしてくれるのは宇宙中を捜したって結局は彼しかいないのだ。神威以外の奴に抱かれるなんて絶対に嫌だし、神威の言葉じゃないと安心しない。神威じゃないと殺し合いをしても相手が直ぐに死んじゃうから面白くない。だから早く帰って来てよ。




未だ帰らぬ花椿