※狂愛注意


この誤ちの始まりはなんだったんだろう。俺の下で泣きながら喘ぐ謙也を見てぼんやりとそんな事を考えた。謙也の体は痣だらけで、何度達したのか解らないくらい白濁まみれだ。

「んっ…あぅ、や…激し…っ」
「…嫌じゃないんだろ?」

好き勝手に動かしていた腰をピタリと止めて謙也の顎を右手で強引に掴み上げた。ヒクヒクと蠢く謙也の体内を感じつつも右手に力を込める。

「言えよ、気持ちいいですって」
「そ、んなの、やぁ…っ」

ほら、まただ。また「嫌」って言った。以前言ったよな。嫌って言ったらお仕置きだって。自分の紡いだ言葉に漸く気づいたらしい謙也の顔を左掌で勢いよく叩いた。

「う゛、ぁっ…」

今回はこれだけで許してあげよう。殴られた頬の痛みに耐えている謙也の腰を引き寄せると再び激しく動き出した。謙也が泣いても鳴いても止める気なんて更々ない。

「…狂ってる、な」

自嘲気味に笑って小さく呟くと謙也に深く口づけた。何で謙也の口内は血の味がするんだろうか。あぁ、俺が殴ったからか。



俺の一方的な情事が終ると同時に謙也は気絶した。下着とズボンだけ履くと、洗面所から濡れタオルを持って来て謙也の白濁にまみれた体を拭いてやる。痣だらけの腹、縛った痕のある手首、俺がつけた鬱血痕のキスマーク、涙で濡れた痕跡のある謙也の頬。全ては俺がつけたものだ。謙也の後ろに手を這わせて中を掻き出してやれば俺の白濁が溢れ出した。

―――今すぐ謙也と別れてや。

珍しく怒りに染まった表情で俺にそう告げた白石の言葉が脳内に浮かんだ。多分白石は気づいてるんだと思う。謙也が俺に酷い事をされている、と。だけど謙也は白石に何も言っていないと思う。部室で俺が殴ってつけた痣を見られても「転んだ」と誤魔化すから誰も不審に思わないわけで。だけど最近増えてきた痣は白石を勘づかせてしまったらしい。

「…自分で出来るなら、とっくにそうしてるわ」

謙也が好き過ぎて、愛し過ぎて、大切だからこそ自分の気持ちをセーブ出来ない。自分の感情を抑え込む事が出来ない。それは行動となって謙也を苦しめる。殴って、蹴って、噛みついて。

「何でなん?」

穏やかな寝息を繰り返す謙也の金色の髪に触れて尋ねてみたけど、当然答えは返って来ない。ねぇ、何で謙也はこんな馬鹿な俺と別れへんの?別れてくれたらもう謙也にこんな事せんで済むのに。

「…っん…春樹…?」

目が覚めたらしい謙也が俺の顔を覗き込んだ。こっちを見ないで。また謙也に酷い事をしてしまいそうで怖いんだ。

「…何で、泣いとるん…?」

先程の情事で沢山泣いていたからなのかは解らないけど謙也の声は酷く掠れていて。嫌でも自分の過ちを思い知らされた。だけどいくら思い知らされても止める事なんて出来ないのが事実だ。

「……大丈夫、やで」

ふわり、と目の前に傷んだ髪色が広がって謙也に抱き締められているんだと解った。突然の事に驚きつつも謙也の掠れた声に静かに耳を澄ませる。

「…俺は、春樹の味方や」

何でだよ。何でそんな事を言うのか理解出来ない。だって俺は散々謙也に暴力で肉体的に痛めつけて、言葉で精神的に傷つけたのに。そんな事を謙也が言うから、俺は止まらなくなってしまうんだ。

「…春樹、…好き」

先程泣いてた為に真っ赤に腫れた瞼、掠れた声、殴られて腫れた頬。謙也をそうさせたのは紛れもなく俺なのに。

「ほんまに、アホやろ」

じわじわと這い上がって来るのは言い表しようのない征服欲と支配欲で。振り上げた俺の腕を虚ろに見つめる謙也の表情は涙で滲んだ視界のせいで上手く見えなかった。




抱き寄せた狂気
(ねぇ、愛してるよ、愛してる)