夢主死ネタ



気付いたら真っ白な部屋にいた。体を動かそうとすれば激しい痛みが俺を襲う。不安で怖くて誰か呼ぼうとしたけどそれは叶わなかった。



「春樹っ!」

バタンと部屋のドアを開けて大声で俺の名前を呼んだ亮の方に目を向ける。亮の目には涙が溜まっている。後ろからは慈朗や長太郎が息を切らして入って来た。

「…!」

ぐい、と引っ張られて気付けば亮の腕の中。体格差があって俺の方が体が大きいのに亮は俺を抱き締めた。

「よ、かった…事故、って聞いて…」

亮の言葉の語尾が震えている。泣いているんだろうか。ゴメンな、という意味で亮を抱き締め返した。

「…俺達は外にいましょうか」
「そうするCー」

長太郎と慈朗が気を利かせて俺と亮を二人きりにしてくれた。俺と慈朗は幼なじみ。長太郎と亮には慈朗を通して知り合った。今では大切な友人。亮は大切な俺の恋人だけど。

未だに俺を抱き締めたままの亮。少しだけベッドに座ったまま抱き締められている体勢が苦しくて亮の背中を軽く叩いた。

「…あ、悪い」

真っ赤に目を泣き腫らした亮を再び正面から抱き締めた。俺の肩口に顔を埋めて亮はまた泣く。

亮、と呼んだはずなのに本人は何事もないように泣き続ける。また呼ぶ、亮。俺の口は動いているのに亮は気付かない。


声が出ない事への疑問が確信に変わった。



「…春樹?」

ギィ、と錆びたドアを開いた音が空に響く。振り返らなくても解る。亮が来た、と。俺が事故に合ってから1週間が経った。あと1ヶ月もすれば退院出来るらしい。

フェンスに寄っ掛かり遠くの景色に向けていた視線を亮に向ける。今日は亮一人のようだ。

おいで、の意味を込めて両腕を広げる。そうすれば照れながらも亮はゆっくりと俺の方に足を進めた。

俺の腕に納まる亮の小さな体。…亮は気付いているのだろうか。俺を離さないようにキツく抱き締める亮の腕。ごめん、と口を動かしても声が出る事はない。亮が好きだと言ってくれた声はもう。

ごめんな。決めたんだ。俺はもう―――…



「春樹!やめろ!!」

蒼い空を背景にして俺は立つ。

「春樹!!」

俺の一歩前には足場はない。

「春樹、駄目だCー!」
「馬鹿な事は止めて下さい、春樹さん!」

俺の後ろには亮と慈朗と長太郎。俺の前には空。

ごめんな、亮。歌と音と声があふれているこの世界で、それらを忘れるなんて俺には無理だ。もう言葉を発せないなんて俺には耐えられない。こんな俺は弱いのかな?

くるり、と振り返る。涙を流しながら俺に手を伸ばす亮。目を真っ赤にして叫ぶ慈朗。何度も俺の名前を呼んでいる長太郎。

ごめんな。

慈朗と幼なじみでよかったよ。毎日が楽しかった。寝る子は育つって言うけれど、慈朗は程々にしとけよ?じゃないとまた部長に怒られるぞ?

亮を頼むよ、長太郎。ダブルスのパートナーとして後輩として。結構一人で抱え込むからさ、亮は。支えてやって。

亮、大好きだよ。ごめんな、約束守れそうにないや。一緒にいようって約束したのにな。こんな俺を許して欲しい。亮の大切な人になれて幸せだったよ。毎日がキラキラに光ってたんだ。大好き。何度言っても満足しないくらい。

言葉を失った俺はどう生きればいい?言葉がなければ、今まで通りの生活なんて出来ない。自分の意思を伝える事だって、何かを頼むにしても、沢山の苦労を伴うだろう。周りの人達に迷惑をかけるくらいなら、俺は今の世界を捨てる。こんな俺を君は笑うかな?

「置いていくなよ、春樹!!」

亮が泣く。俺には涙を拭ってやる事は出来ない。ごめんな。亮は連れて行けない。世界で一番大切な人だから。


あ、い、し、て、る、


口を動かして5文字を一番大切な人に伝えた。声は出なかったけど亮に伝わった気がした。




逆さから見た世界は、
(綺麗な蒼色だったよ)
(亮の叫び声が聞こえた)
(空から見てるから泣かないで)