卑怯だと、言われた。

他人の心には遠慮なしに入って来るくせに、自分は決して他人を入らせようとしない。そんな所が卑怯だ、と。そのくせ無駄に優しくして最終的には優しく突き放す。そんなお前が嫌いだ、と言われた。

彼は尚も言葉を嗚咽混じりに紡ぐ。

俺がどれだけお前に恋しているのか知らないくせに無意識に俺に優しくするお前が嫌いだ、と。冷たく突き放してくれるのならば忘れる事が出来るのにそれをさせてくれないお前が嫌いだ。どうして優しくするのか、と彼は俺に問いかけた。



「…雅治」

ほら、またじゃ、と彼は泣きながらも自嘲気味に笑った。お前が俺の名前を呼ぶ度にお前の存在を意識せずにはいられない。突き放せばいいのにどうして俺を抱き締めるのか、と雅治は俺に問い続ける。




俺の制服が雅治の涙を吸収していく。俺の右手は雅治の銀髪の上を滑る。俺の背中をぎゅっと握り締めつつも雅治は俺に言葉をぶつけ続ける。

お前なんか嫌いだ、と。俺の心を掻き乱すお前さんが嫌いじゃ、と雅治は俺に言葉を紡いだ。


次第に嗚咽が酷くなって段々と雅治の言葉が聞き取れなくなる。聞きづらくなった雅治の言葉から「行かんといて、」と微かに聞こえた。

「…雅治…俺な、」

雅治の嗚咽混じりの言葉を遮って俺は彼に話し始めた。雅治は未だに俺の制服の背中部分を掴んで離そうとしない。

「雅治と一緒に過ごせて幸せだったよ。俺も雅治が好きだった。でもお別れしなきゃ」

嫌じゃ、と雅治が頭を振った。俺の事を嫌いでもいいから行かないで、と雅治は俺に訴えるように言葉を強めた。

「駄目だよ、解ってるだろ?」

せっかく両想いになれたのに一生会えないなんて嫌だ、嫌いなんて嘘だ、と。ずっと傍にいて、と雅治は俺を強く抱き締めた。

「雅治、俺だって雅治と一緒に生きていたいよ。だけど駄目なんだ。解るだろ?」

死んだ人は天国に行かなきゃいけないって知ってるだろう?、と言い聞かせるように雅治に告げると彼は再び大粒の涙を溢した。

なんで事故なんかに巻き込まれたんだ、と彼は俺を責めた。だけど仕方なかったんだ。俺はそういう運命だったらしい。




あぁ、そろそろ時間だ。視界が霞んで音が聞こえなくなってきた。雅治、と俺は呟いた。

「好きだ、愛してる。俺の事は忘れてもいいから、幸せになって。雅治が笑ってるなら、俺は──「嫌じゃ!!」

俺が愛しとるのはお前だけじゃ、お前としか俺は幸せになれん、と雅治は泣きながら俺に怒鳴った。そして先程のように「行かないで」と言葉を溢した。

「じ─あ、迎えに─くよ」

遂に俺の声まで上手く発せられなくなってきた。お願いだから、これだけは雅治に伝えたいんだ。もう少しだけ、

「雅─が死─時に─。だから─て自分─ら死ぬんじゃ──ぞ?」

俺は上手く雅治に伝えられただろうか?不安だったけれど、雅治が必死に頷いたからきっと伝わってるだろう。

「愛、して、る」

俺の言葉が最期の合図だったかのように俺は消えた。だけど「俺も愛しとる」と聞こえた雅治の涙混じりの声はきっと気のせいじゃないと思うんだ。



邪魔な涙腺
(涙が邪魔で君が視えないよ、)
(君が死んだら一番に迎えに行く)
(だから、それまではお別れだよ)