キンコンカンコンと単調に鳴るチャイムが部活終了を告げる。俺は教室に一人で恋人のアイツを待っている。
窓の外を見れば夕日の赤色がグランドに綺麗な色彩の風景を描いていた。今この場に画材があったのなら俺は間違いなくこの風景を残すだろう。それほど綺麗な風景で。
突然、バタバタと廊下を誰かが駆ける音がした。その音と同時に生徒指導の先生が、「廊下を走るな、丸井!」と怒鳴っているのが聞こえる。やっと来たみたいだ。俺が待ってた人が。
「春樹、待った!?」
「そんなに急がなくても良かったのに」
ブン太の姿を見れば赤髪から汗がポタポタと落ちている。急いで着替えたのか制服は結構着崩れていて、何て言うか、うん、エロい。
「だって美術部って終わるの早いだろぃ」
「置いて帰ったりしないからゆっくり着替えていいよ」
ブン太が肩に掛けていたタオルで彼の髪から滴る汗を拭いてやる。しかし、何時見ても見事な赤髪だと感心する。俺の髪はただの黒色だからちょっと羨ましい。
「ほら、制服もちゃんと着て…」
「うへーい」
気の抜けたような返事が返って来る。ブン太が制服を直して、俺が後ろから髪を拭く。縮まる距離。ブン太のガムの甘い香りが鼻を掠めた。あー、ヤバい。凄くキスしたい。でも此処は学校だし、と自分に言い聞かせて我慢する。
「んー…春樹の匂いがする」
後ろを向いているからブン太の表情は伺えなかったけれど、…正直反則だと思った。先程の我慢も虚しく、ブン太の肩を持って自分と向き合わせると唇を押し付けた。
「…っ……ん」
触れて押し付けるだけのキス。唇を離せば近距離で俺とブン太の視線が交わる。幸せそうに微笑むブン太がとてつもなく愛しくて抱き締めた。
「そーいえば…俺の匂いってどんなの?」
家の匂いとかだったら嫌だな、と内心密かに思う。帰ったら制服を嗅いでみようかな、と真面目に考えた。
「んー何て言うか…絵具の匂い?」
良かった、家の匂いじゃなくて、と本気で思ったのは内緒。もしそうだったら恥ずかしいから。自分の家の匂いがどんな匂いか気にはなるが…。
「そりゃ、美術部だし?」
「でも俺、春樹の絵具の匂い好きだぞぃ」
「じゃあ、俺の匂いは美術室の匂いだな」
あの教室には画材やら絵具やらが沢山あるから。準備室の方には粘土とかの臭い匂いのする物があるが。
「春樹は美術室よりもいい匂いがする」
そう言った張本人は俺の肩口に顔を押し付けるように埋めた。実際「いい匂い」と言われて悪い気はしない。寧ろ好きなヤツにそう言われるのは正直嬉しい。
しかし、こうも俺の理性サンを無意識に苛めるのは止めて欲しい。実は結構我慢してる方で。本当はブン太を押し倒したくて、キスしたくて堪らない。あー、頑張れ、俺。
「…春樹、キスしろぃ」
珍しく命令形で。珍しく甘えちゃって。俺の理性サンが完全に俺に向かってバイバイした。もういいか、キスくらい。
「…本当に反則」
「?何、んっ…」
何を言ったのか、というブン太の問い掛けを唇で塞いだ。右手でブン太の腰を、左手で後頭部を固定して逃げられないようにする。
「…っ…んーっ、…」
息が続かなくなったらしいブン太が抵抗するが、頭と腰を固定しているから逃げられない。俺の息はまだ続く。
「ん、…はっ…ふぁ…」
限界だ、と言うようにブン太が口を開けて酸素を吸い込んだ隙に自分の舌を差し込んだ。…ブン太の口ん中、熱い。
思い切り深くブン太の咥内を犯す。あ、ブン太のガムの味がする。グリーンアップル味だっけ? 毎回味するんだけど甘い。
お互いの舌と舌が絡み合って、吐息と吐息が混じり合う。厭らしい音が教室に響く。
「ん、…はぁ…はぁ」
口を離せばブン太は力が抜けたらしく俺に寄り掛かる体勢になった。俺はそれを受け止めて抱き締める。
窓の外をふと見れば夕日は沈んで薄暗くなっていた。先程の夕日よりも腕の中にブン太がいるならコレはコレで最高の景色だろうと思う。
(となりに君がいれば)
(…今日、家来る?)
(無言で頷いた君)
(その夜、美味しく頂きました)
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美術部×テニス部でした。