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三年初期設定



ブン太が試合で負けた。いや、正確に言えばブン太のミスで試合を落とした。当然のように試合終了後には真田がブン太とジャッカルを殴った。立海に負けは許されない事が掟だから仕方ないのかもしれない。

「…ブン太はー?」
「さぁ…何処に行ったのでしょうか」

柳生に尋ねてみたものの知らない様子だった。学校に帰って来ると同時にブン太は姿を消した。部室やトイレ、裏庭も捜したけれど何処にもいない。

「はぁー…」
「春樹、丸井を捜して来てね」
「は?」
「部長命令だから」

見つけるまで帰ったら駄目だよ、と言い残して幸村は部室に戻って行った。直ぐに幸村達が荷物を持って帰る様子が見える。俺に命令出しておいて他の奴等は帰ってもいいのかよ。若干呆れつつも幸村に感謝した。幸村もブン太が心配なのだろう。口には出さないけれど。

「ブン太ー」

名前を呼んでも本人は出て来ない。辺りはすでに暗くなり始めていた。夜の学校で嫌なんだよな。非常口に設置されている外灯の光りが妙に不気味な雰囲気を醸し出している。

「おーい…ブン太ー」

近くにいるのなら早く出て来てほしい。校内を捜し回る俺の方が怖いんだぞ。幽霊なんていないと自分に必死に思い込ませながら俺は足を進める。

「春樹?」
「ぅおっ!!」

ガサリと茂みから出て来たのは俺が捜していた人。急に出て来んなよ。凄く驚いただろ。いや、ひびってなんかないよ。驚いただけだから。自分で自分に言い訳をしながらブン太に視線を向けた。

「捜しに来てくれたんだろぃ?」

悪いな、と一言謝ってブン太は俺に背を向ける。赤く充血した瞳に少しだけ低くなった声。俺が気付いてないとでも思っているのだろうか。

「何で無理すんの?」

俺の問いかけにブン太は小さく肩を震わせた。本当に嘘が下手だな。今だって涙を堪える事に必死な事くらい解っている。恋人の俺には隠さないで言ってくれればいいのに。恋人なんだからブン太の辛い事も悲しい事も受け止めたい。

「ブン太…こっちおいで」

未だにブン太は俺に背を向けたままで、振り返ろうとさえしない。意地っ張り。でもそんな所でさえ愛しい。

「…ほら」

両手を開いて受け止める姿勢を取ったけれどブン太は振り返らない。はぁ、と小さく溜め息を吐き出した。もう少し甘えてくれてもいいのに。

「ブン太、おいで」

3回目の呼び声にブン太は小さく振り返った。やっぱり瞳は潤んで今にも泣きそうだ。一歩ずつゆっくりとブン太が俺の方に歩み寄る。二人の距離はあと1m。待ちきれなくて自分から歩み寄ると震える体を抱き寄せた。

「…ご、めん…春樹…」
「いいから…好きなだけ泣けよ」

そう言ってやればブン太は嗚咽を堪えながらも小さく泣き出した。いや、嗚咽を抑えているせいで不細工な声がブン太の喉から漏れる。それさえも好きだ。

今回の試合は対戦相手が悪かった。ブン太にボールを触らせまいと集中的に前衛を避けた攻撃。当然ボールはジャッカルに集中する事になった。ジャッカルはスタミナ切れ、ブン太はそんなジャッカルを助けようとして自ら穴を空けた。

相手はその空いた穴を集中して攻め続ける。結果としてブン太とジャッカルは負けた。立派な戦法だ。片方を狙ってもう片方を引きずり出す。今までにブン太達はこんな戦い方に出会った事がなかったのだろう。

「…まだ俺達は3年になったばかりだろ?これからゆっくり強くなればいいんだよ」

解ったか、とブン太に問えば小さく頷いた。それでいいと優しくブン太の背中を擦る。ゆっくりでいいんだ。焦る必要なんてないのだから。これからジャッカルは集中力とスタミナの克服を、ブン太は冷静判断が出来るようにしていけばいい。

「…も、平気…ごめ…ん」

俺から離れて行く体に少し淋しさを覚えて俺はブン太を再び抱き寄せた。腕の中の彼は抵抗せず俺の背に手を回した。

「明日から練習頑張ろう。な?」
「……ん」
「ん。いい子」




濡れた睫毛にキスをする
(テニスに一生懸命な姿も)
(こっそり泣く姿も)
(全てが愛しい)