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俺の恋人の仁王雅治はどうも掴めない奴だと思う。いつも飄々としていて、俺が雅治に振り回される事もしばしばある。


「春樹」

…何故雅治が俺の腰の上に跨がって妖しい笑みを浮かべているのだろうか。ここは学校の屋上で、今はどのクラスも授業中で、時間帯は真っ昼間で。

「…え、…ま、さ、治?」

するり、と雅治が俺の首に腕を回す。まるで誘っているみたいで。何だか、今日の雅治はエロくて、俺は喉をゴクリと小さく鳴らした。

「春樹…」

雅治が再び俺の名前を熱っぽく呟いて、そっと雅治の顔が静かに俺に近づいて来る。もしかしてあの雅治が俺に、キス?

今まで俺は雅治に右手で数える程しかキスをしてもらっていない。逆に俺からキスをする事は数えきれない程あるのだけど。

あまりに今の事態を珍しく感じて、同時に嬉しさと期待感が俺を包む。段々と近づいて来る雅治の気配を感じながら俺は瞼を閉じた。


「……あのー?」
「ククッ…引っ掛かったぜよ」

有り得ない。本当に有り得ない。雅治は俺にちゃんとキスをしてくれた。俺の唇にではなく、俺のおでこに。畜生、俺の期待と感動を返せ。

俺への悪戯が成功すると雅治は嬉しそうに俺の上から退けた。また俺は雅治に振り回された。その事実が何よりも悔しい。俺だっていつまでも振り回されてばかりじゃないんだからな。

「…雅治」
「なん?」

名前を呼んで振り返った雅治の肩を掴むと屋上のフェンスに押し付けた。ガシャンとフェンスが軋む音が空に響いて、当然のように雅治は驚いて目を丸くしている。

「…雅治、好きだよ」

珍しく雅治に好きと呟くと、俺は段々と雅治の唇に自分の唇を重ねようと近づける。俺の瞼は開いたままで、雅治も瞼は閉じていない。

鼻と鼻が触れ合いそうなくらいの距離で交わる雅治の視線と俺の視線。羞恥に負けたらしい雅治が静かにそっと瞼を閉じる。それを確認するとゆっくりと唇をくっつけた。雅治の瞼に。

「……?」

俺が雅治の瞼からゆっくりと唇を離せば、雅治はキョトンとした表情になって悔しそうに顔を歪めた。そんな雅治を見て俺は笑みを溢す。これで五分五分だな、と呟けば雅治は再び悔しそうな表情を浮かべた。

「…ピヨ」
「ククッ、拗ねんなって」
「別に拗ねとらんぜよ」

そう言いつつも雅治は俺を見ないように顔を反らしている。完全に拗ねてんじゃねぇか、と内心で悪態を吐きつつもそんな雅治を見つめる。

「雅治、こっちおいで」

両手を広げて誘ってみたけれど雅治は俺の方をチラリとも見ない。仕方ないと思いつつ、俺は雅治に向かって足を進めた。

「雅治」

俺と雅治の距離は数センチメートル。この距離がもどかしくて、俺は雅治を引き寄せて抱き締めた。俺の腕の中にすっぽりと収まる雅治が愛しい。

「…春樹」

雅治が顔を上げれば、ゆらゆらと揺れる雅治の瞳。あ、ヤバい、キスしたい。俺の方が少し身長が高い為に雅治からの上目遣いにクラクラしながらも俺は雅治にゆっくりと唇を近づける。


「…またかよ」

今度のキスは雅治の唇が俺の頬に触れた。悪戯を実行した当の本人は面白そうに喉をクツクツと鳴らしている。もー、いい加減解れよ、俺。悔しくて、雅治の唇に勢いよく口づけた。




俺よりも一枚上手の恋人
(当分は雅治に勝てそうもない)
(でも、いつかは俺が一枚上手になってやる)