「丸井先輩、ずるいっスよ!」
「騙される赤也が悪いんだろぃ」
「俺だって…!」
「あ、ちょっ!」

ブン太が赤也の弁当から唐揚げを取り、赤也がブン太の弁当の卵焼きを奪う。普通に微笑ましい光景なのに俺の胸中に渦巻くどす黒い気持ちは何なのだろうか。

当然二人は俺の醜い感情に気付く事なくおかずの取り合いをしている。駄目だ、苛々する。抑えが全く効かない。赤也は俺の恋人だろう?違うのか?

「春樹、眉間に皺が寄っているが」
「あぁ…何でもない」

蓮二の言葉に返事を返しても考えるのは赤也とブン太の事ばかり。こんな気持ちのまま弁当なんて食う気がしなくて弁当箱を閉じた。



このまま授業に出る気なんて皆無で、現在部室でサボり中。ウォークマンでお気に入りの曲を大音量で再生しながら俺はベンチに横になっている。あと5分もすれば授業が始まるだろう。

「あれ…春樹先輩?」

バタンとドアを開いて部室に入って来たのは赤也だった。軽く息切れをしている様子を見るとどうやら教室から走って来たのだろう。

「あぁ…何しに来たの?」

イヤホンを片耳だけ外すと上体をベンチから起こして赤也に尋ねた。未だにどす黒い気持ちは俺の胸の中で継続中。

「教科書置きっぱなしで…あ、あった」
「赤也」

それじゃあ、と部室から退室しようとした赤也を呼び止める。くるりと振り返った赤也の腕を掴むと部室内に再び押し込めた。勿論ドアには鍵を掛ける。

「春樹、先輩…?」

ジリジリと赤也との距離を縮める。俺が一歩赤也に近付けば、赤也は一歩俺から遠ざかる。いつもと雰囲気の違う俺に赤也は困惑しているらしい。

「赤也、何で逃げんの?」

キンコンカンコンとチャイムが鳴り響いた。5時間目開始の合図。5時間目は何だったっけ?確か社会だ。社会ならサボっても大丈夫だ。あの教科は暗記ばかりだから。

「っ…」

赤也の後ろには壁。俺の目の前には赤也。完全に赤也は逃げられない。トンと赤也の両側に手を置くと赤也が怯えたように瞳を揺らめかせた。

「…怖い?」

俺の問い掛けに赤也は小さく頷いた。聞いてはみたけれど止める気は一切ない。ただ聞いてみただけってやつ。

赤也の唇に俺の唇を押し付けようとすれば赤也が首を横に動かして拒否をする。それが俺のどす黒い気持ちを更に悪化させて余計に苛々する。

「春樹、先輩…っや…やだっ!」

無理矢理に唇を押し付けた。舌で赤也の唇を割って口内に入り込む。その間にも俺は左手で赤也の腰に手を、右手は赤也のネクタイをほどく。

「やだ…何で…!」

何で?そんなの俺にも解らない。ただ駄目なんだ、苛々が抑えきれない。赤也の瞳に他の誰かが写るのでさえも耐えきれない。赤也の瞳には俺だけが写ればいいのに。

「っ…あぁ…春樹、んぁ…いっ」
「っ…はっ…赤、也」

後ろから赤也を犯して、腰を快感に任せて振って何が楽しいんだと自分に問い掛けても何も返せない。俺だって本当はこんな行為したくない。だけど抑えきれないんだ。ごめんな、赤也。

「も…っ…やらぁ…んっ…!」

赤也の汗ばんだ背中に強く吸い付いて俺は印を残す。キツくキツく吸い付いて俺のものだという印を幾つもつけた。




背中にキス
(所詮俺の醜い感情はただの嫉妬だ)
(胸中に燻ぶるどす黒いこの気持ちも)
(ただの恋人である赤也を傷付けるだけの嫉妬でしかない)