×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -












好きな人と漸く付き合えた時点では誰でも幸せだと思えるのだ。俺だってその例外ではなく幸せだった。そう、幸せだった。過去形で。



「今日、一緒に帰れねぇから」
「そう、解った」

こんな会話をもう何回したのだろうか。恐らく両手の指では数え切れないくらいだと簡単に予想が出来る。最近では会話はこれくらいしかしていない。恋人らしい会話をした事なんて遠い昔のようだ。

切原赤也と付き合って8ヶ月。きっかけは普通に考えればあり得ない。俺が冗談半分で好きだと言ったら赤也が頬を赤く染めて俺もだと呟いた。その時の表情が不覚にも可愛いと思ってしまった俺はそのまま赤也と付き合う事になった。

今考えてみれば本当にあり得ない。だけど赤也と付き合えてよかったのは事実だ。初めて本気の恋ってやつを体験する事が出来たし、こんなに誰かを好きになったのも初めてだった。本当に好きだった。そう、過去形で。

今ではお互いがどうして付き合っているのか解らない。赤也はこの恋に冷めてしまった様子だ。俺も例外ではなく冷めてしまったらしい。以前に好きだと感じた事が遠い昔のように思える。

「潮時、…かな」

これが一般的に言う倦怠期という物らしいがこれを乗り越える為に必要な物が俺達の間には何もない。お互いを思いやる気持ちだとか、相手の事を考える余裕だとか。

赤也は部活で忙しい。俺は吹奏楽で忙しい。それに赤也は次期部長だ。忙しさは俺とは比べ物にならないだろう。俺達2年生は学べる内に学んでおかないといけない事が沢山ある。

赤也と同じ学年だからこそ三年生がいなくなった部活の事を考えると不安で仕方ない気持ちが解る。赤也は赤也で焦っている様子だ。何に焦っているのか俺には解らないけれど。どうせ聞いても教えてくれないだろうし。


「ずっと一緒にいれたらいいな」
「仕方ねぇから、約束してやるよ」
「仕方ねぇから、約束されてやるよ」


そんな馬鹿らしい会話をしながらお互いの頬を染めて笑い合って交わした約束が今となっては懐かしい。ずっと一緒に、か。あの頃は絶対に大丈夫だと信じていた約束が今ではこんなに脆く感じてしまう。

「バイバイだな…」

小さく呟くと携帯を手にした。現在時刻は深夜を過ぎているが赤也は起きているだろう。見慣れた名前を電話帳から探し出すと通話開始ボタンを押した。

ワンコール…ツーコール…。

「…もしもし」
「赤也?…話、あるんだけど…」




さよなら小指
(君と一緒に交わした約束を絡めた小指)
(その小指に別れを告げる)(さよなら、と一言だけでも)