「手相?」
「おん。最近手相にはまってんねん」

3時間目が終わって今は休憩時間。隣の席の忍足謙也に手を見せてくれと頼まれた。最近手相にはまってるって…。テニスはどないしたんや。

「俺、どれが何の線か解らへんわ」
「えっとな…これが運命線っちゅーて…」

手のひらを縦に走る線を謙也になぞられて少しくすぐったい。てか、俺の運命線は謙也に比べて短い。

「謙也より短いってへこむわー」
「うっさいわ!」

俺の軽い冗談にも全力でツッコんでくれる謙也は一緒にいて楽しい。やっぱ俺、謙也の事好きやなぁーなんて改めて実感してしまった。

「んで…これが生命線や」
「…なんや、むっちゃ短いんやけど」


俺の生命線とやらは謙也と比べてむっちゃ短い。謙也は普通の長さらしいが、俺はその三分の一くらいの長さしかない。

「あー…早死にしそうな気ぃしてきた」
「たかが手相やっちゅー話や」

気にするなと励ましてくれる謙也には悪いが、生命線が短いという事実はずっしりと俺の心にのしかかった。

チャイムが鳴り手相の話は一旦中断。席に付くと始まる4時間目の古典の授業。嫌いな古典の授業なんて真面目に受ける訳もなく、机に伏せると瞳を閉じた。

「(ほんまに早死にしたらどないしようかな…)」

無性に死ぬという事実が怖くなってきた。人はいつか死ぬものなんだけど、急にそれに対しての実感が湧いて怖くなった。早死にすれば謙也とも一緒にいられない。それが何よりも怖い。そんな不安や恐怖を振り払うように睡魔に身を任せた。



「春樹……春樹、起きぃ」
「……、んー…?」

ぼーっとしながらも睡魔を振り払って頭を起こせば、目の前には眩しいくらいの謙也の笑顔。

「何でそんなに笑顔なん…?」
「左手」

左手がどうかしたのか、と思いつつも手のひらを見れば歪んだ線が書かれていた。それは生命線の上をなぞるように。

「これで長生き出来るっちゅー話や」




油性ペンで書かれた生命線
(謙也の手には油性ペン)
(俺の手には長い生命線)
(眠気も一気に消えるくらい嬉しかった)