謙也がフラれた。相手は結構長い間謙也が片思いしていた子で、やっとの思いで謙也が告白したが玉砕。案の定謙也は号泣して、1時間経った今でもまだ泣き止まない。

「う…っ…んっ…」

嗚咽を堪えようとしているらしいが逆効果で余計に酷い嗚咽が俺と謙也以外に誰もいない部室に響いている。他の部員は帰った後で謙也と俺しかいない。

「…謙也」

泣くなよ、なんて無神経な事は言えずに俺は謙也の隣に座ったまま。感情豊かな謙也の事だから当分は泣いたままだろう。

誰にも言ってはいないが、俺は謙也が好きだ。だけどユウジのようにストレートに感情表現なんて出来るはずもなく、本人に言い出せず今に至る。言いたいけれど言えない。

謙也が他の人を好きになったのは今回に限った事ではない。謙也にとって俺は良き相談相手くらいにしか思われていない様で、今回のように失恋した謙也を慰めるのは俺の仕事だった。

別に謙也が他の人を好きになろうが俺は大して傷付きもしなかった、だって謙也は最終的に俺の隣で泣いてくれるから。それだけで良かったんだ。それだけで満たされたのに今回は違った。

「謙也」

隣で泣く謙也をキツく抱き締めた。当然謙也は泣きながら驚く。好きだ、と言えたらどれだけいい事だろうか。だけど謙也はきっとユウジと小春のように男子間の恋愛には興味がない事は解りきっていた。


「嫌なら、突き放していいよ」


俺は卑怯だ。謙也が断れるはずなんてないのに。傷付いた謙也の心の隙間に入り込む俺は狡い以外の何者でもないだろう。

案の定謙也は俺を突き放す事はせず、逆に俺の背にしがみついた。俺が謙也を慰める為にしていると勘違いしてくれて助かった。だって俺は謙也を慰める気なんて更々ない。

だけど許してほしい。こうするしか俺は謙也の中に存在出来ないから。こうするしか俺は満たされないから。




嫌なら、
(謙也の涙で濡れる制服と)
(俺の涙で濡れる謙也の制服)
(謙也の嗚咽に俺の嗚咽を混じらせて)
(どうか、どうか、今は気付かないで)