本当に困った事になった。今日の部活は次の練習試合のミーティングをするはずだったのに、何故か俺は走っている。理由は簡単だ。レギュラーは全員参加のはずなのに肝心の千歳が来ていない。本当に千歳の放浪癖には困ったものだ。

部長の白石は我が四天宝寺のゴンタクレの我儘を黙らせる事で忙しい。なので白石に代わって俺と謙也とユウジ、小春の4人で千歳捕獲チームを編成し、現在捜索しているという訳だ。

小春の頭脳によれば一番可能性のある場所は裏山か千歳のお気に入りの散歩道らしい。なんちゅーアバウトな。裏山って言っても一言で表すなら、広い。なので謙也、ユウジ、小春は裏山を捜し、俺は散歩道を捜すという方向で決定した。

「春樹のモノマネしたらきっと千歳も出てくるはずや!」
「流石ユウ君やわぁー」
「…いや、そんなん無理やって」
「いや、でも千歳が出て来る可能性は高いっちゅー話や!」

謙也までユウジのモノマネ作戦に乗り気で頭が痛くなった。そんなにホイホイ出て来る訳ないっつーの。未だに作戦内容について話し合っている3人を背にして歩き出した。



「千歳ー」

あれから20分。千歳の名前を呼びながら散歩道を歩いているが未だに見つからない。もしかしたら裏山にいるんじゃないのだろうか。そう思い始めた時、小さく何かの鳴き声が聞こえた気がした。

「…猫?」

聞こえた方向に足を進めた。鳴き声は裏道の奥の方から聞こえる。ひょい、と建物の陰から顔を覗かせて見れば、一匹の黒猫と人がいた。その人は紛れもなく俺達が捜索していた人で。

「……千歳」
「春樹、どぎゃんとしたね、こんな所で」

お前を捜してたんだよ、と思い切りもじゃもじゃ頭を叩いた。痛い、と言葉を溢しつつも千歳は黒猫を見る視線を外さない。

「野良猫…?」
「多分そうばい。偶然見つけたと」

黒猫はやけに毛並みが良くて(千歳が多分用意したらしい)ミルクを飲みながら尻尾をゆらゆらと揺らしている。仔猫にしては体が大きい気がする。恐らく成長途中なのだろう。

「むぞらしかと?」
「…おん」

でもちとせのほうがかわいい、と耳元で囁いてやれば千歳は一瞬で顔を染める。そんな姿を見て俺は喉を震わせて笑った。赤い顔の千歳の唇に俺の唇を。




成長途中の黒猫と
(裏道でキスをしましょう)


(千歳発見、確保!)
(ちょっ、待っ)
(問答無用や!)
(た、助けて、春樹)
(…自業自得や、あほ)