空が青いという不都合 | ナノ








何度も何度も家族が欲しいと嘆いた俺は今幸せなのだろうか。そんな事を度々考えては幸せな筈だと自分に言い聞かせてきた。今では晋助が家族になってくれているのだ。何度も願った家族がいるのに、何故俺の心は満たされないのだろう。そもそも家族とは何なのだろうか。一番聞きたい問いかけを松陽先生に聞く事も今では叶わない。



少しの間、留守にする。晋助がそう言って部屋から出て行ったのが今から半日程前である。あの後どうやって話が終わったのか、俺の記憶は曖昧である。ただ彼が返事を求めなかった事によって俺は何も言えなかった。いや、それはただの言い訳かもしれない。晋助の気持ちに対して、俺は何を感じたのだろう。そもそも今まで何人、いや何十人の女性に家族になって欲しいと俺から告白した事はあったが、それはあくまでも女性の場合であり、肝心の俺は告白すらされた事がなかったのだ。それなのに昨晩、人生で初めて告白をされた。それも昔から馴染みのあった男にである。未経験の事が二つも同時に起これば、頭の中が真っ白になる事も仕方がないと思えてしまう、なんて事はただの言い訳に過ぎない。

ふう、と吐き出した溜息は少しも気持ちを晴らしてはくれなかった。俺は晋助が好きなのだろうか。勿論人として、仲間として好きだ。それは断言出来るし、俺にとって晋助は大切な家族だ。じゃあ恋愛対象としては?そう聞かれると何も言葉が出て来ないのが今の俺の状態だ。晋助の好きという言葉は俺の存在を恋愛対象として考えたものなのだろう。そうでなければそもそも銀時に嫉妬するはずがないし、今までの晋助の俺に対する理不尽な態度も銀時の事が絡んでいると考えれば些か腑に落ちるものがある。

「…言ってくれないと分かんないっつーの」

もっと早く言ってくれてたら、そうすれば俺は晋助の事を何度も傷付けずに済んだのかもしれないのに。俺はどうしたいのだろうか。考えても考えても答えは出て来ない。晋助は大切だ。だがそれが恋愛対象としてなのかと問われると難しいのだった。

「息抜きでもしようかな、」

外の空気でも吸って来よう、と一人で勝手に決めた俺は戦艦を抜け出して江戸の街へと足を進めた。



気分転換に外に出て来たのは良いが、銀時達の住んでいる歌舞伎町には何故か足が進まず、その結果俺は歌舞伎町の隣町に来ていた。ここなら彼等にも会う事はないだろうし、俺の事を知っている人間にも会わないだろう。歌舞伎町程ではないが、この街はそれなりに栄えている様子だった。小道には子供が数人で地面に絵を描いて遊んでいるし、大通りは沢山の老若男女が行き来している。

「ねぇちゃん、なにしてんだよー!」
「あ、ボールっ、取ってくださいっ」

その声のする方に振り向けば、幼い少女が転がるボールを追い掛けていた。その後ろには少女の弟と思われる少年が立ったまま少女を見ている。どうやら少年がボールを蹴ったは良いらしいが、それを少女が取り切れなかったらしい。転々と進むボールは小道から大通りに入ってしまった。少女は必死に球体を追う。

「ボールっ……きゃ、!」

刹那、少女の体が跳ね飛ばされた。その足元に転がる彼女の体に、その生物は何の躊躇いもなく鉄の塊を振り下ろした。そこから先は何も分からない。




次に俺が俺の意識を取り戻したのは暗い独房の中だった。両手と両足の枷が酷く重く感じられたが、自分の身体の方がそれよりもずっと重かった。自分の身に纏っていた着物の至る所が何かが付着して変色している。どうして自分はこんな所に居るのだろう。そう考えても何も答えは出なくて。ふと顔を上げれば黒い服に身を包んだ男達が俺を見下ろしていた。

「よォ、お目覚めか?」



不実の種から咲いた花