空が青いという不都合 | ナノ








はてさて、一体どうしたものだ、と俺は頭を抱えた。目の前には銀時宛に届けられた例の遊郭からの手紙がある。そこに書かれている金額を見る度に俺は軽い目眩に襲われるが、現在ではそんな事も言っていられない。

「…本格的に働かないと、やばいよな」

何時まで経っても銀時に甘えている訳にもいかないのだ。甘えると言っても万事屋にただ居候させて貰っているだけなのだが。それでも住む場所のない俺にとっては有難かった。

「銀時?…おーい、銀時ってば」
「、んー…」

ソファーに横になり顔の上に週刊誌を置いて意識を夢の中に飛ばしている彼の名前を呼んでみるが、一向に起きる気配はなかった。銀時に働き口を紹介してもらおうと考えていたのだが、肝心の本人がこの様子ではどうする事も出来ない。

「なあなあ、銀時ってば」
「んー…」
「聞きたい事あるんだって。起きてくれよ」
「……ん」

いくら銀時の肩を揺すってみても本人が起きる気配はなかった。普段滅多に仕事をしていないくせにどうしてこんなに眠る事が出来るのだろうか。そう不思議に思いながらも俺は銀時の肩を揺すり続けた。

「銀時ィ、これ取っちゃうよ?」

返事のない銀時に構う事なく、俺は彼の顔の上にある週刊誌を取った。昼間の太陽の明かりに彼が眩しそうに眉に皺を寄せたが、どうやら起きる気配はないみたいである。まだ起きないのかと呆れている俺を他所に、未だ尚銀時は心地良さそうな表情を浮かべて夢の中にいた。

「銀時ってば」

彼の頬を指で突いてみるも彼が起きる様子は全くない。どんだけ爆睡しているんだよ、と呆れつつも俺は彼の頬を弄る手は止めない。

「…こうしてると普通にモテる顔してんのになァ」

瞼を閉じたままの銀時の顔を眺めつつ俺は小さくそう呟いた。黙っていれば銀時はそれなりに格好良い部類にはいると思うのだ。それこそ周囲の女性が放っておかないだろうというくらいに。それなのに彼にここまで女性運がないのは銀時の性格の所為であるとしか思えない。

「まあ…直ぐに鼻ほじるし、安定した収入じゃねェし、天パだし、面倒くさがりだし。そりゃモテねーよなァ」

けらけらと小さく笑うと銀時の眉間に余計に皺が寄った気がした。たぶん、俺の気の所為だと思うんだけどね。そんな事を考えながらも俺の指は未だに銀時の頬を触っている。薄く口を開いて眠る銀時に変わらないなと考える。昔の銀時も眠る時はこんな顔をしていた。本当に、この男は昔から変わらない。

「俺…もし女だったら銀時に惚れてたよ」

昔から俺を助けてくれていたのは銀時だった。現在だって銀時は俺を助けてくれている。借金だって一応は肩代わりしてくれているし、住む場所だって食事だって与えてくれている。そんな銀時に俺はただならぬ恩を感じていた。それに彼は外見からは想像し難いが意外と人情深いのだ。そういう所も全て含めて俺は彼が好きだった。勿論昔馴染みとして。

「まっ、俺はそういう趣味はないんだけどね」

働き口探して来るよ、と意識を夢の中に飛ばしている彼にそう告げて俺は銀時の頬から手を離した。早く借金分を稼がなくては。幸いな事に例の遊郭は取り立てがそこまで厳しくはなかった。とは言え、支払わないとそれ相応の落とし前が待っているのだが。

「新八、ちょっと出て来るね」
「あ、はい。夕飯前までにはちゃんと帰って来てくださいよ」
「解ってるって。いってきます」
「玄さん、いってらっしゃい」

がらり、と玄関を開くと小さな風が俺の髪の毛を拐った。とりあえずは人通りの多い場所にでも行ってみよう。そうすれば少なからず働き口の二つや三つは見つかるだろう。そんな事を考えながら、俺は万事屋の階段を下りた。




夏のにおいのするところ


「…アイツ、何言っちゃってくれてんの」

そう呟きながら額を押さえる男の顔は赤く染まっていた。自分の顔に熱が集まっている事を自覚しながらも、その顔を隠すように玄が取ってしまったジャンプを再び顔の上に置く。まさか男にあんな事を言われて照れるなんて思ってもいなかった。しかも昔から馴染みのある男にだ。そんな事を考えながら銀時は再び瞼を閉じた。