ぼく、金魚 | ナノ







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「赤慧ー、まだかァ?銀さん待ちくたびれて死んじゃいそう」
「え!?そ、んなのいやだ!」
「ちょっと銀さん、赤慧くんは何でも本気にするんですから縁起の悪い冗談は止めてあげてくださいよ。ほら、赤慧くん涙目じゃないですか」
「うわ!わ、悪「何赤慧を泣かせてるネ!くそ天パァァァァァァ!」

神楽の勢いの良い飛び蹴りの所為で、派手な音を立てて銀時の身体は万事屋の玄関先にある階段を転げ落ちた。勿論この出来事で赤慧が更に目に涙を溜める事になったのは言うまでもない。



「全くよォ…飛び蹴りして相手を階段から落とすなんて何処のジャッキーだ」
「銀ちゃんが赤慧を泣かせるのが悪いネ。とっとと反省するヨロシ」
「誰かさんの飛び蹴りの所為で完全に赤慧に謝るタイミング逃したんですけどコノヤロー」

銀髪の大人と少女が言い争う前では、赤慧と新八が手を繋いで楽しそうに喋りながら歩いている。そんな光景を彼、坂田銀時は心底羨ましそうに眺めていた。くそ、新八のくせに何赤慧と手を繋いでるんだ、という言葉が今にも銀時の口から溢れてしまいそうだった。

「銀ちゃん、顔、気持ち悪いアル」
「…うるせーよ、生まれつきだ」

銀時が何を考えているのかを何となくだが理解した神楽は小さく溜め息を溢した。赤慧の事になると途端に大人気なくなってしまう銀髪頭の上司に呆れるしかない。そもそも、何故新八と赤慧が手を繋いで歩いているのかというと、大半が神楽の所為である。

「大体テメーが俺を階段から突き飛ばさなかったら、俺が頭から血を流す事もなく赤慧に怖がられる必要もなかったんだよ!」
「過ぎた事を何グダグダ言ってるネ。男のくせに情けないヨ」
「お前が原因なん「あれ?旦那じゃないですかィ」

神楽と銀時の言い争いを遮る様に聞こえた江戸言葉に、二人は同じタイミングで振り返った。声の主はどうやら巡回中らしく、その隣では瞳孔の開いた人相の悪い男が苛ついた様に銀時を睨んでいる。

「あらら?何処のニコチン中毒者かと思ったら多串くんじゃないの」
「喧嘩売ってんのかテメェ!」
「酢昆布臭ぇと思ったらテメェかくそチャイナ」
「酢昆布を馬鹿にすると痛い目に合うぞドSヤロー」

銀時が土方へ、沖田が神楽へと喧嘩を売る様ないつもの流れに入ってしまい内心新八は困り果てていた。別にこの組み合わせで喧嘩が怒る事は珍しいわけではない。だが今日は赤慧がいるのだ。初めて見る銀時と神楽の喧嘩に赤慧はただただ驚くばかりだった。

「ちょっと四人とも!こんな往来で喧嘩しないで下さいよ!特に銀さん!赤慧くんが怯えちゃってるじゃないですか!」

四人の喧嘩を見て心配そうにおろおろとしている赤慧を見かねた新八が遂に彼等へと声を荒げた。「赤慧」という言葉に神楽と銀時は直ぐ様相手をからかう事を止め、平生とは違うその行動に驚いたらしい沖田と土方は互いに顔を見合わせた。

「謝るから泣くな赤慧ェェェ!」
「マダオは引っ込んでろヨ!赤慧の事なら私に任せるアル!」
「へぇ…コイツが旦那の言ってた奴ですかィ?」

今にも両目から涙を溢してしまいそうな朱色の髪色の少年の顔を沖田は覗き込んだ。初めて見る顔が急に目の前に現れた事に赤慧は驚きつつも、小さなその手で沖田の頬をぺたぺたと触る。

「赤慧!そんなの触るの止めなさいドSが移るからァァァ!」
「…旦那は俺の事を何だと思ってるんでィ」

銀時は止めろと言うが赤慧は目の前にある沖田に完全に興味が向いてしまっていた。顔に触れた後、赤慧は沖田の薄い栗色の髪の毛に手を伸ばした。後ろでは銀時が何かを叫びながらショックを受けているが、今の赤慧にはそれすら目に入らないらしい。

「…おいコラ餓鬼。俺はお前の玩具じゃねェんでい」
「きれ、い」

うっとりと沖田の髪色に見とれる様に赤慧は小さく呟いた。後ろでは嫉妬心からなのか、銀時が更に叫び声を挙げており、心なしか神楽も若干苛立っている様に見える。

「総悟。俺達は遊びに来たんじゃねェんだ、仕事に戻るぞ」

未だに赤慧を覗き込んでいるままの体勢を保っていた沖田に痺れを切らした様に土方が言葉を投げ掛けた。すると赤慧は今度は土方に関心が向いたらしく、今まで好き勝手に触っていた沖田から離れると土方を見上げる。

「…何だよ」
「………くさい」

赤慧は「煙草臭い」という意味で言葉を発したのであろうが、その瞬間に銀時と沖田が大声で笑い出したのは言うまでもない。




「あー、笑ったわ」
「お前、なかなかいいセンスしてんじゃねェか。今なら特別に俺様の下僕にしてやりまさァ」
「げぼ…、く?」
「ちょっとォォォ!?沖田くん、赤慧に変な言葉教えないでくれる!?」
「その前に俺に謝れェェェ!」

散々沖田と銀時というドSコンビに馬鹿にされていた土方が遂に叫んだ。その声があまりにも唐突で、当然の様に赤慧は驚いて、慌てて土方から隠れる様に銀時の後ろへと身を潜めた。

「ちょっとちょっと多串くーん。うちの赤慧を虐めないでくれませーん?」
「そうだぞ土方ァー、いい加減に副長の座を俺に譲れ土方ァー」
「そうだそうだー!酢昆布持って来いやコノヤロー!」
「話が逸れるから餓鬼二人は黙ってろ!!」

どうしてこうも万事屋と総悟が一緒にいると話が脱線してしまうのか、と土方は頭を抱えるしかなかった。

「あ、旦那」
「んァ?何だい総一郎くん」
「総悟でさァ」

何かを不意に思い出した様に沖田が口を開いた。土方や神楽、そして張本人の赤慧に聞こえない様に小声で銀時に囁いた。

「コイツの正体、解りましたぜィ」




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(飼い主の所有愛)
(親が子供に与える愛情)
(それとも…)






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