ぼく、金魚 | ナノ







[]





赤慧が元の姿、もとい金魚の姿に戻ってからの万事屋三人の行動は早かった。金魚に戻ったからには鰓呼吸しか出来ないのではないかと新八が提示し、神楽が金魚に興味を示す定春を押さえ、その隙に銀時は金魚となった赤慧を素早く水槽に入れたのだった。

「神楽ァ、もういいぞ」

神楽が定春を押さえていた手を離すと、やはり定晴は金魚二匹の入った水槽に駆けて行った。最初は定春も一匹増えた金魚に興味を示していたものの、数分も見つめていればどうやら飽きたらしいく床に横になって眠ってしまった。

「…やっぱ元の金魚、だよなァ」

定晴と入れ替わる様にして万事屋三人は水槽を睨んでいた。神楽が掬った普通の金魚に加え、銀時が掬った少し小さくも美しい金魚が水槽の中で悠々と泳いでいる。

「銀ちゃん、赤慧どうなるネ?もう戻らないアルか?」

眉毛を八の字に下げた神楽が淋しそうな声色で銀時に尋ねた。初めは赤慧をライバル視していた神楽だったがどうやら赤慧にしっかりと懐いてしまったらしい。

「…さァな」

ぽつり、と銀時が呟く様に言葉を返した。赤慧が先程の様に人間に戻るのか、なんて彼自身にも解らなかった。ただ解るのは赤慧は金魚になったのではなく、元の金魚の姿に戻ったという事だ。

「神楽、新八」

未だに赤慧の泳いでいる水槽を見つめている神楽と先程赤慧が溢したお茶を片付けていた新八に銀時は声をかけた。流石に何時までも今のままではいられないと銀時には解っていたから。

「ちょっくら出掛けて来るわ」

夕飯までには帰るから、と付け加えて銀時は二人の返事を聞く事なく万事屋を後にした。銀時は懐に入っている財布から今ある手持ちの金額を確かめる。空から降り注ぐ雨粒なんて今の彼には気にならなかった。




「…で、何ですかィ」
「いやー悪いね総一郎くん」
「総悟です旦那」

万事屋を出てから数十分後、銀時は行き着けのファミレスへ来ていた。既に彼の目の前には空いたパフェの容器が一つ置かれており、どうやら久々の糖分摂取に彼は上機嫌らしい。

「話って何ですかィ?…あ、ストロベリーパフェ一つ」
「オイ、勝手に何頼んでんだ」
「呼び出したのは旦那ですぜ?このくらいいいじゃないですかィ」
「銀さんの財布はいつでも寒いんですゥー。お前ら税金泥棒なんだから善良な一般市民に奢ってくれてもいいんじゃね?」
「無茶苦茶です旦那」

ウエイトレスに運ばれて来たストロベリーパフェを小さめのスプーンで口に運びながら沖田は話を元に戻した。相変わらず雨足は強く、傘を持った人々が大通りを左に右にと流れて行く。

「…用件があるなら早く言ってくれませんかねィ。警察も暇じゃないんで」
「嘘ついてんじゃねーよ。俺ァ総一郎くんが真面目に仕事してるとこ見た事ないからね」

再び脱線してしまった会話に沖田は溜め息を溢した。急に電話で呼び出されたと思ったら、呼び出した本人はなかなか用件を言わない。一体この男は何がしたいのかと頭を抱えるしか術がない。

「…調べ事、頼みたいんだわ」

ぽつりと呟いた呼び出し主の声は先程までのふざけていた声色とは全く別物だった。普段からは想像出来ない様な真剣な声色。思わず沖田は息を飲んだが、平生を装って受け答える。

「へェ…旦那が俺に頼み事ですかィ。こりゃ珍しいでさァ」

旦那は俺に何を調べてほしいんですかィ、と先程の軽口に付け加えれば、意を決した様に銀時が口を開いた。

「…金魚の姿から人間の姿になる天人について。何でもいいんだ。こういうのは俺が調べるより総一郎くんみたいな警察が調べる方が効率がいいだろ」

本当ならとりあえず自分を呼び出した用件を聞いて散々焦らしてやるつもりだったのに、いつの間にか沖田は首を縦に振っていた。その理由は沖田自身にも解らない。

「まったく…しょうがないでさァ」
「…サンキュ、総一郎くん」
「総悟です旦那。…今度何か奢ってくだせェよ」
「おー任せとけ。好きなだけ酢昆布買ってやるよ」
「あの糞チャイナと一緒にしないでくだせェ。胸糞悪ィ」




「(あーあ…なんで引き受けちまったんだろ)」

沖田総悟は屯所の自室の畳に横になっていた。その瞼の上には普段馴染みのあるアイマスク、口には先程帰りがけに駄菓子屋で買った棒付き飴がくわえられている。

「…金魚の姿から人間の姿になる天人、か」

先程銀時から頼まれた調べ事の内容をぽつりと呟いてみた。何故銀時が自分に頼み事をするのかも定かではない。理由も解らないのに引き受けた過去の自分を自嘲しつつも溜め息を一つ吐き出した。

「…まったく。あんな顔されたんじゃ断るに断れないでさァ」

仕方ねェ、と呟くと沖田総後は自室を後にした。彼の足が目指すのは過去の真選組が記した記録書やら事件に対する参考資料の置いてある特別室。




あなたがぼくを飼うと決めた
(何時までも今のままではいられない)






- 5 -
PREVBACKNEXT
[]
topあなたがぼくを飼うと決めた