ぼく、金魚 | ナノ







[]





「……」
「……え、っと」

現在、志村新八は頭を抱えていた。それもこれも眼前にいる赤慧の言葉が原因なのであるが。まだ幼い赤慧に聞かれたままの事を教えてしまっても良いのだろうか。そんな考えが新八の頭の中でぐるぐると巡っていると知りもしない赤慧は、ただ不思議そうに目の前の新八を見つめていた。

「いやいやいや、でもこういう教育も必要なんじゃ…でも赤慧くんにはまだ早い気が…」
「…しんぱち?」

どうしよう、と一人呟きながら慌てている新八には赤慧の言葉が届いていない様子である。それから数分間くらい悩みに悩み抜いた新八は意を決して口を開いた。

「…良いかい、赤慧くん。そういう事は銀さんに聞くんだよ」

銀さんごめん、という謝罪の言葉は新八の心の中で大きく叫ばれた。肝心の赤慧は妙に納得したような顔で頷いて、銀時がいるであろう居間へと走って行ってしまった。




「ぎんとき!」
「おー、赤慧。どーした?」

ソファーに横になってジャンプを読んでいた銀時が顔を上げて赤慧へと目線を向ける。体を起こすと赤慧があのね、と言葉を紡いだ。

「あかちゃんは、どこからくるの?」

ぼとり。銀時が手にしていたジャンプが床に落ちた。それを赤慧は不思議そうに見ているが、銀時の頭の中では眼前の少年の言葉が何度もリフレインされていた。

「あ、あああああ赤ちゃん…?」
「うん。あのね、さっき、しんぱちにきいたんだけど…『銀さんに聞いておいで』って」

だからおしえて、と純粋無垢な少年は銀時に向かって微笑んだ。小さい子供が好奇心を持つ事は良い事だと以前テレビで目にしたが、果たして今回は良い事と言えるのだろうか。そんなことを考えながら銀時は頭を抱えた。

「ぎんとき?」

なかなか口を開かない男を不思議に思ったらしい少年が彼の名前を呼ぶが、銀時はそれどころではなかった。まだ反抗期も来ていないこの少年の問い掛けにどう答えれば良いのだろうか。寺子屋での性教育のように事実を有りの侭に教えるという事は何だか憚れるような気がする。

「えーっと、赤ちゃんってのはだな…アレだよアレ」
「?」
「あー…そうだ、コウノトリさんが運んで来てくれるんだ」

咄嗟に銀時の口から出たのは、そんなありきたりな言葉だった。いくら銀時が良い年をした大人だからと言っても、男女がセックスをして男の精子と女の卵子が受精をして…なんて事を赤慧に言えるはずかなかった。

「こうのとりさん?」
「そうそう、河野トリさんっていう初老のおじさんがキャベツ畑で埋まってる赤ちゃんを収穫して籠に詰め込んで空を飛んで煙突から渡しに来るんだよ」

いやー、これで赤慧も賢くなったなァ、と銀時が誤魔化すように早口で捲し立てる。赤慧は頭にまだクエスチョンマークを浮かべていたが、銀時に褒められるものだからそのまま流されて嬉しそうに笑った。それを見て銀時は眼前の少年に解らないように小さく安堵の溜め息を吐き出す。色々と話が混ざってしまったが、これで良いだろう。

「ぎんとき、ありがと!」

余程褒められて嬉しかったのだろうか、赤慧は満面の笑みを浮かべて銀時の元から走り去ってしまった。子供に答えにくい質問をされた親の気持ちが解ったような気がする、と銀時は力の向けてしまった頭でそんな事を考えた。




ほんの少し近い位置で
(とある男の苦労話)






- 15 -
PREVBACKNEXT
[]
topほんの少し近い位置で