ぼく、金魚 | ナノ







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「あいつら、どうするネ」

思い出した様に神楽が運転中の土方へと言葉を投げかけた。赤慧を攫った男達のトラックは未だに真選組パトカーの前を走行していた。…荷台にいた男三人は神楽が暴れた所為で暫くは目覚めないだろうが。だがそれでも神楽の気は済まないらしい。尤も銀時も新八も同じ事を考えていたのだが。大人気ないと思われるかもしれないので口にはしなかったが、赤慧を攫って売り飛ばそうとしていたあの男達を銀時は簡単に許せるわけがなかった。自分の大切な人であれば尚更だ。

「あいつらの後始末は総悟に任せてあるから心配ねェよ…いや、やっぱ俺も心配になって「ファイトー、いっぱーつ!死ね土方ァ」ぎゃああああああああ!!」

可笑しな掛け声と共に、派手な音をたてて前を走っていたトラックが爆発した。突然の出来事に驚いたものの、土方がハンドルを勢い良く切ったおかげで炎上する物体との衝突は免れた。それからトラック炎上の原因を撃ち放ったと思われる人物に向かって思いきり振り返る。

「てんめー何してくれてんだァァァ!」
「総悟ォォォ!俺、速やかに誘拐犯を捕獲しろって言ったよね!?何爆破してくれちゃってんのォォォ!?」
「ふざけんなよサド野郎!殺す気かァァァ!」
「寿命が縮まったわァァ!」

上から順番に銀時、土方、神楽、新八である。銀時達が乗っているパトカーの後ろを走っている同じ真選組のパトカーの窓からは、バズーカを構えた沖田が残念そうな表情を浮かべていた。

「ちっ…土方の野郎、死ねば良かったのに」
「オイイイイイ!聞こえてんぞ!」

そうして誘拐事件は未遂に終わり、犯人達は焼け焦げて真っ黒な姿のまま逮捕された。赤慧を拐った男達はかなりの長い距離を車で走り続けていたらしく、それを追いかけていた銀時達も最終的には歌舞伎町から随分と離れた場所まで来てしまっていた。

「……ぎんと、き」
「赤慧、どうした?」
「いえに…かえりたい…っ!」

今まで銀時の膝の上に向かい合う様にして抱えられていた赤慧は、それだけを彼に告げるとじわりと瞳に涙を浮かばせた。それを見た銀時は慌てつつも、朱色の少年を抱き締めた。しがみつくように自分の首にか細い腕を回した赤慧に得も言えぬ感情が心臓から広がっていく。

「…それなら心配ねェよ。一応お前らは一般市民だからな。家までは真選組が送ってやる」

そうか、と素っ気なくも土方の言葉に返事をした銀時は静かに安堵の息を吐き出した。事件に遭う前に沖田にパフェを奢っていた所為で自分には所持金がなかったのだ。到底神楽や新八がタクシーを拾えるだけのお金を持ってきているとも考えられなかった銀時は、赤慧の言葉にどう返事をしてやれば良いのか困っていたのだから。

「…すっかり暗くなっちまったな」

ぽつり、と呟いた銀時の声に言葉を返す者はいなかった。赤慧は未だに銀時の首にしがみついて嗚咽を溢していたし、神楽と新八はいつの間にか眠ってしまっていた。無理もない話だが、どうやら疲れてしまったらしい。土方は端から相槌を打つ気すらないらしい。

「…赤慧」

未だにぐずぐずと鼻を鳴らしている少年の頭を銀時は優しく撫でた。すると赤慧はよりいっそう顔を彼の首筋に埋める。赤慧が無事に帰って来て嬉しい反面、悔しい気持ちが銀時の頭の中をぐるぐると回っていた。

「(…情けねェな、俺も)」

今回の誘拐事件が未遂で終わったのも、赤慧を取り戻す事が出来たのも、殆んど土方を含む真選組のお蔭であると言っても過言ではなかった。それが悔しいのである。大切な人を守れなかった事実が銀時には何よりも悔しかった。この感情は、そうだ、過去に仲間を失った時のそれに酷く似ている。

「ぎ、んとき…っ」

自分の名前を泣きながら呟く赤慧の声が何処か遠くで聞こえるような気がした。




そっと忍ばせて
(無意識のうちに唇を噛み締めていた)






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