ぼく、金魚 | ナノ







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「神楽!赤慧!無事か!?」

銀時の声に神楽は右手を大きく振る事で応えた。その反対の左手には赤慧の右手がしっかりと握られている。それを見て銀時は大きく安堵の溜め息を吐き出した。自分が行く、と神楽が荷台に向かって飛び出した時はどうしようかと考えたが、無事で何よりである。

「赤慧、此処から銀ちゃんの所までジャンプするアル」
「…え、」
「私が見本を見せてやるネ」

そう言うや否や、少女は勢い良く荷台から真選組専用車の屋根部分に立っている銀時の元へと飛び移った。突然の神楽の行動に銀時は驚愕しつつも、自分の方へ飛び込んできた神楽をしっかりと抱き止める。

「こンの馬鹿!急に飛び移って来る奴があるか!」
「いだっ!」

銀時の右手が神楽の頭を叩く。とりあえずは神楽が無事に戻って来た事に銀時の足を支えていた新八も安堵の溜め息を溢した。荷台に残るは赤慧だけである。

「って馬鹿!赤慧を残して来たら駄目だろーが!」

あ、と腕の中から神楽の間の抜けた様な声が銀時の耳に届いた。本当にこの少女は破天荒である。一先ずは神楽を車内に戻して、銀時は再び屋根の上で赤慧と向き合う。

「赤慧、神楽みたいにこっち来い!」

銀時が両腕を広げて受け止める体勢をしてみるも、赤慧は涙を流して嗚咽を漏らしながら首を横に振るだけだった。走行中のトラックの荷台から、こちらの走行中の車の屋根に飛び移る事は普通なら恐怖に襲われて出来ないだろう。…神楽は別だが。

「ぎ…ん…!」
「…赤慧!一生帰れなくて良いんなら置いて帰るぞ」
「!…や…だ!」

こちら側に飛び移る事と同じ様に赤慧が嫌だと首を必死に降る。まったく、我儘な奴だ、と溜め息混じりに呟いてみるも赤慧が可愛い事には変わりがないのだが。

「なら、来れるだろ?」

目に涙を溜めた赤慧が腹を決めたらしく、小さく頷いた。それを確認した銀時は優しく朱色の少年に向かって微笑んだ。少年もその表情に安堵したのか、小さく笑みを溢す。

「赤慧、出来るだけ勢い良くだぞ」
「…う、ん!」
「絶対に、受け止めてやるから」

赤慧に向かって両腕を広げる。今度の少年は首を横には振らなかった。ぐ、と赤慧が涙を拭う。お互いの車は走行中の為、出来るだけ道が直線の時に飛び移る必要があった。下手にバランスを崩して車道に打ち付けられたら洒落にならないのだから。

「って事で頼むわ多串くん」
「テメェに頼み事されんのは気持ち悪ィが仕方ねェ。引き受けてやる」

相も変わらず憎まれ口を叩く土方に銀時も同じ様な言葉を返しはするが、彼の頭の中は赤慧の事が大半を占めていた。早くあの泣き虫な少年を抱き締めてやりたい。平生の様にあの少年の朱色の頭を撫でてやりたい。失いたくはない、大切な―――…

「万事屋!」
「赤慧!跳べ!」

車道は直線を描いている。それを確認した土方が銀時に合図を送ると、彼は大きく少年の名前を呼んだ。そして、朱色の少年が勢い良く銀髪の男目掛けて跳ぶ。男は両腕を広げ、眼鏡の少年と先程飛び移って来た少女とが男の足を固く掴んでいる。少年を受け止めた時に二人が車から落ちてしまわないように、と。

「ぎん、とき!」
「赤慧!」

自分の方に跳んで来た赤慧を銀時は出来るだけ優しく、力強く引き寄せた。それと同時に彼の足を掴んでいた少年少女から歓声が上がった。たった一時間程離れていただけなのに、酷く腕の中に感じる体温が懐かしいと感じてしまう。

「ぎんっ…ぎんとき…!」

安心したからなのか、再び双眼から涙を溢す赤慧を銀時は強く抱き締めた。ただ腕の中にいる赤慧が愛しい。言葉に出来ないような感情が銀時の頭の中をぐるぐると回る。けれど、言葉にしなくてもただこうしているだけで彼には伝わるような気がした。

「赤慧、」
「…っ……、?」
「おかえり」

俺の発した言葉に、赤慧は破顔しながら泣いていた。




under your heart
(おかえりいとしいひと)






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