ぼく、金魚 | ナノ







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「ぎんと、きっ…!」

前方のトラックの荷台から此方を見つめる赤慧は、やはり未だに泣いていた。幸いにも赤慧を連れ去った男は凶器らしい物を持ってはいない様子で。とりあえずはその事実に安堵した。

「多串くん、上借りるわ」
「はァ!?え、ちょっ、上!?」

多串くんの返事すら聞かず、俺はパトカーの窓から身体を乗り出した。車窓から身体を乗り出すと、ぐっと腕に力を込めて上体を車の屋根部分に乗り上がる。俺の突然の行動に多串くんは驚いているが、そんな事を気にしている時間はない。走っている車の屋根に立つという事は酷く危険だが、こうでもしないとあの男達から赤慧を助けるなんて事は出来そうにもなかった。

「赤慧!…って、ごふぅ!」

真選組の車から、赤慧を連れ去った男達の車に銀時は飛び乗ろうとしたが、何かが彼の足首を掴む。その所為で銀時は顔面をパトカーのフロントガラスに大きく打ち付けられる羽目になってしまった。その突然の事態に一番驚いたのは、車を運転している土方本人だったのだが。

「てんめェ神楽ァァァァ!何俺の足掴んでくれてんだァァァァ!!」

顔面をガラスに強打した銀時は、自分の足首を掴んでいる少女を怒鳴りつけた。男達の車に飛び移る事を目的に、思い切り勢いをつけていたらしく、その分激突のダメージは大きかったらしい。

「糞天パ、よく考えるアル。勢いつけて飛び乗るのは良いけどその後はどうするつもりネ」
「あァ?そんなん飛び移れば良いだろ」
「これだから馬鹿は困るアル…私が行くから銀ちゃんは此処で待ってるヨロシ」
「っおい、神楽!!」
「後でちゃんと赤慧と私を受け止めるネ!」

銀時の返答を聞かず、神楽は自身の身体能力を活かして男達の車へと飛び移った。危ないから止めろ、という銀時の制止の声は少女に届くには遅すぎた。




「…か、ぐ…ら!」

すとん、と男達のトラックの荷台へと着地した神楽は、男達に動揺させる時間すら与えないかの様に瞬時に動き出していた。荷台にいた三人のうち、赤慧を抱えていた男の腕を捻り上げると、そのままの勢いを利用して男を荷台の壁へと投げつけた。

「このガキ…!」

残り二人の男のうち、一般人よりも大きな身体を持った血気盛んそうな男が神楽に掴みかかろうと突進する。だが彼女は夜兔である。見た目は少女の様な身体つきをしていても、三流人間の敵う様な相手でもなく。

「ふん!」

懐へと入り込んだ神楽が勢い良く右手で男の腹に衝撃を与えると、男はいとも簡単に倒れ込んだ。残りは荷台の隅で怯えている細身の男、ただ一人である。

「や、やめてくれ…!頼む…!!」
「うがァァァァ!」

恐れて神楽に背を向けた男を、後ろから抱え込むと少女は思いきり身体を後ろへと反らした。所謂ツープレックスである。それにより最後の一人も倒れてしまった。荷台には神楽と赤慧だけが立っている。

「赤慧、大丈夫アルか?」
「かぐ、ら…か…ぐらぁ」

涙を拭う事もせずに、赤慧は一目散に神楽に抱き着いた。大きな声をあげて泣く赤慧に最初は驚いていたらしい神楽も、普段銀時が赤慧にしている様に彼の頭を撫でてやる。それは姉が弟に抱く感情に酷く似ていた。

「赤慧!一緒に帰るネ!」

神楽の言葉に赤慧は涙ながらに何度も何度も頷いた。




、それだけだよ
(飼い主のところへ帰りたい)






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top、それだけだよ