ぼく、金魚 | ナノ







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一応、土方もいた。それに神楽や新八だって赤慧と一緒にいる。それなのに変な胸騒ぎが止まらない。不安で心臓が潰される様な感覚が気持ち悪ィ、と銀時は内心で舌打ちを一つすると更に走る足に力を込める。

「赤慧!」
「…あっ…ぎ、とき!」

先程赤慧達と別れた場所、其処に赤慧はいた。銀時を見つけて嬉しそうな表情で赤慧が彼の元へ駆けて来る。そんな情景を見て、銀時は安堵の溜め息を吐き出した。今まで感じていた奇妙な胸騒ぎはやはり自分の勘違いだったらしい。

「ぎん、とき!」

銀時の名前を口にしながら、赤慧は彼の腰に抱き着いた。そして普段の様にぎゅっと銀時の腹に顔を埋める。何も変わらない、自分から見れば可愛いと思ってしまう赤慧の平生の行動に思わず微笑みが銀時の口元に浮かぶ。

「…赤慧」
「なあに?」
「…いや、何でもねェ。新八のとこ戻るか」
「う、ん!」

銀時の手を引きながら嬉しそうに楽しそうに自分に言葉を紡ぐ赤慧。そんな光景を見て、彼はこの少年を何があっても離したくはないと強く思った。数千万円の価値があるから、なんて下らない理由ではない。ただ、赤慧が愛しい。そんな感情からそう思っただけだ。

「し、ぱち!かぐ、ら!たぐし!」
「土方だっつってんだろ!!」

するり、と銀時と繋いでいた手を離して、赤慧は土方を含めた三人の元へと駆け出して行く。自分が赤慧から離れていたたった数十分の間に彼は土方の事を自分と同様の呼び方で呼んでいた。前者の事も、後者の事も、銀時にとっては何処か心淋しいものがあったのは事実で。

「あ、銀ちゃんも帰って来たネ!」
「オイ万事屋!総悟は何処行きやがった!」
「あァ?んなもん知らねーよ」
「あいつまたサボりやがったなァァァ!」
「うるせぇから耳元で叫ぶなよ多串く…って、赤慧!!」

一瞬の出来事だった。まるで風が木葉を吹き拐って行くみたいだった。銀時達の目の前で、赤慧は男に抱き抱えられ、そのままの勢いで男は赤慧を抱えたまま走り出す。

「赤慧!!」
「ぎんと、き!やだっ!」

銀時が手を伸ばすも、彼の手は空を掴んだ。そのまま銀時達万事屋が立ち止まって唖然とするわけもなく。万事屋三人は赤慧を抱えて走っている男を引っ捕らえるべく全力で駆け出した。

「やだっ、やだやだぁ!ぎんと、き!ぎんとき!」

突然の出来事に、パニックになって泣き叫ぶ赤慧を取り戻そうと三人は必死に追いかけるが、何せ男もそれなりに走る速度が速い。必死に足を進めながらも銀時の脳内にはいくつかの単語が浮かんでは消えていた。

商品、
数千万円、
金魚族、

「くそっ!誰が、赤慧を売らすかよ…!」

銀時の呟いた言葉に、赤慧の事実を知らない新八と神楽が驚きと疑問を含んだ目で彼を見るも、今はそれを悠長に尋ねている場合ではない事を神楽と新八は理解していた。赤慧を抱えた男が十字路を左に曲がり、三人も同じ様に曲がるが、其処にあったのは大型のトラックだった。

「いいぞ!出せ!」

男は赤慧を抱えたままその荷台に飛び乗り、男の合図を受けてトラックは発車する。人間の脚力と自動車では叶うはずもなく。みるみる間に万事屋と赤慧の距離は開いていく。

「ぎ、とき!しんぱち、かぐらぁ!やだ、やだぁ!」
「赤慧!」

どれだけ赤慧に手を伸ばしても届かない。どれだけ足を動かしても赤慧に追い付けない。それでも銀時は諦めたくはなかった。愛しい少年を失いたくはなかったし、守りたかった。

「万事屋!乗れ!!」

突然として現れた白色と黒色の真選組専用の車に驚いたものの、直ぐ様に何を優先すべきかを考えた万事屋三人は土方の運転するパトカーへと滑り込む様にして乗り込む。

「真選組の目の前で誘拐たァ、良い度胸してんじゃねェか」

加えていた煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、土方は前方のトラックに追い付く為にアクセルを強く踏み込んだ。




あなたに飼われてたい
(失いたくない)






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