「ボス、電話ですぜ」

「あぁ、ありがとう」

通りがかりに部下に呼び止められて何かと思えば、日本から電話だそうだ。脳裏に3つばかりの顔が浮かぶ。忘れたくても忘れられない、元家庭教師。と、その生徒で可愛い弟分。そして、もう1人。
最も可能性があるのは最後。ルンルン気分で電話台までスキップしていくと、

ドガッ

「いて!」

こけた。

「ボスっ!?大丈夫ですか!?」

慌ててドアから顔を覗かせた部下を再び下がらせる。あぶねーあぶねー。やっとの思いで電話を取り、耳に当てると、

「またこけたのか?このへなちょこが」

「ってお前かよっ!?」

「俺だと不満か?あぁ、期待してたのは――」

「ちちちげぇよ!そ、そんなことよりリボーン、なんの用だよ」

「お前、今から日本に来い」

その瞬間、窓の外が騒がしいことに気がついた。急いで窓を開けるとそこには自家用ジェット機。小さなパイロット席の窓からロマーリオが笑顔で手を振っている。準備万端だ。

「わぁったよ…ハァ……」

相変わらず強引な家庭教師の手口に深いため息をつきつつ、ディーノは窓から飛び降りた。ロマーリオが見ていたから、とても華麗なジャンプだった。

そういえばジャポーネに行くの、久しぶりだな。あいつは元気にしているんだろうか。

名…――


* * *



「で、何の用だよ?」

「なんだ。えらく不機嫌だな」

って普通そーだろ。こんなワケもわからずに呼び出されて。
リボーンはちら、と時計を見る。そのまま無言の時が10秒ほど過ぎ、ディーノがもう一回事情を聞こうとした時ドアが開いた。そしてその向こうにいたのは、

「名っ!?」

「えっ!?ディーノ!?な、んで?」

日本にいる恋人。姓名。
前にツナの仲間の1人、雲の守護者―雲雀恭弥の家庭教師をやっていたときに知り合ったのだ。驚いている顔を見る限りは全くリボーンに知らされていなかったのだろう。ディーノも疑問に満ちた目でリボーンを振り返る。
するとリボーンは、

「立派なボスは女を泣かしたりなんかしねぇぞ」

と言った部屋をてくてくと出て行った。最後に鼻で笑ったことは見なかったことにしよう。そしてそんなことよりも。

「女を泣かすって…名……?」

じっと見ると名は一瞬で顔を真っ赤にした。そして慌てたように手を縦横無尽に振っていたが、その内うつむいてしまった。ディーノは座っていた椅子から立ち上がり名の近くへと歩み寄る。
成人男性のディーノとまだ女子高生の名とでは身長差があるので自然と下からかがんで覗き込む形となった。見ると名は目にうっすらと涙をたたえていた。気の強い彼女の稀に見る姿に一瞬固まるディーノ。
なんというか、きゅんとするというか、心の奥がうずうずするというか、……日本の某電気街でこのことをいったら100%の確率で「萌えの症状だね」といわれるだろう。といってもディーノはイタリア人であり、そして今はそんなことはどうでも良いのだ。
可愛い彼女の泣く姿を眺め続けるにはディーノにはS心が足りなかった。基本的には優しい男なのだ。
ディーノは部屋の端にティッシュがあるのを見つけ、早速とりに行こうとする。がしかし、ガシ、と服の裾をつかまれた。
見ると名がうつむいたままディーノの服に手を伸ばしている。普段の姿とはまるで違った今日の姿にどぎまぎしながらディーノは何かを話そうと脳をフル回転させる。

「あー、あれだよ、名って実は泣き虫だったんだなっ!?」

優しいが気の利かない男。それがディーノだ。
混乱のあまり名の性質を忘れていた。ディーノの言葉にバッと顔をあげる名。猛反対が始まった。

「な、泣いてなんか無いし…!ディ、ーノのこと…全然心配なんて…ぐす…してないしっ!ちっとも、会いた、…くなんてなかっ、たんだか、っ!」

最後まで言い切ることはできなかった。気付けば名はディーノの腕の中にいた。久しぶりに感じる愛しい彼の暖かさに名は意地を張るのをやめた。
本当はね、いっぱい言いたいことがあったの。

でもね、もういいんだ。


何よりも、貴方の鼓動が心地よいから…―




重なる
(何よりも貴方の)(鼓動が心地良いから)

end.



THANKS 8000HIT !!!
>> ディーノ甘夢

朱鷺……ディーノわかんないです(笑)
というか結局なんなの?て感じですね。ツンデレのツの文字もわかっていない私ですが、まぁ努力の跡は認めてくれよという感じの一品でした。←
それでは朱鷺さま、よかったらどうぞ!


2007/11/25 初版
2010/04/10 改稿 ゆん