ガチャ…――

玄関のドアが開く音に反応し名は顔を上げた。右手に持ったオタマを投げ出し、左手に持った料理本は開いたまま伏せておく。鍋の火を止めることも忘れない。
ぱたぱたとスリッパの音をさせながら出迎えに行くと、

「おっかえりー!」

「ただいま」

そこには優しく微笑むリュウの姿。靴を脱いでネクタイを取る。名はネクタイを受け取りかばんをもって先にリビングへ行く。

「夕飯はもうちょっとかかるから先にお風呂はいっちゃってー」

「わかった」

リュウは着替えをとりに寝室へ向かう。名はそれを見送りながらまた夕飯作りに戻る。あたかも新婚夫婦のようなやり取り。しかし2人は、まず恋人同士でもなかった。

2人の関係は、幼馴染。

名とリュウは小さいころからよく一緒に遊んでいて、リュウが家を出る時も一緒に出てきた。
天草家側は監視役として私を送り出したつもりだったのだろうけれど、私はそんな気は毛頭ない。リュウには自由になってほしかったから。だからQクラスの試験を受けることにも大賛成だったし、リュウなら合格確実だしね。
それに、もしかしたら同じ夢を持つ仲間と知り合えるかもしれないと思った。

でも私はQクラスの試験を受けなかった。だって私がいたら、リュウは他の人に興味を示そうとしないから。これは自惚れでも自意識過剰でもなく、真実。
それだけ私達の関係は密接で、絆は強かった。

とにかく、その代わりに私はリュウが出来るだけ良い環境で生活できるように家事全般を請け負った。
元々は天草家のメイド頭の娘。家事全般はお手の物だ。それが今の生活スタイルに至るまでのあらすじだった。



「ふぅん、やっぱりキュウくんはすごいんだねぇ」

「でも直感的に動きすぎだ。もっと冷静になったほうがいい」

「その冷静な部分をリュウが補ってあげればいいじゃない」

夕飯を食べながらリュウは毎日Qクラスの話をしてくれる。大抵が小言だが、彼らの話をリュウが自主的にしている事自体もう既に奇跡に近い。
それに本人は気付いてないだろうけれど、表情も最初と比べて随分と柔らかくなっている。

リュウはキュウくんたちに心を開いてるんだなぁ。そう実感できた。

それは嬉しいこと。ずっと1人で孤独に宿命を背負ってきたリュウには羽を休める場所が必要だから。なのに、ちょっぴり寂しいのは、私のエゴ。

だって今までリュウと通じ合えたのは、私だけだったから…――

「名、どうかしたのか?」

ハッ、と顔を上げれば眉を寄せながらこっちを覗き込むリュウの姿。少しぼーっとしていたみたいだ。でもまさか、リュウをとられたみたいで寂しかった、なんていえるはずがない。

「なんでもないよー、ちょっとぼーっとしてただけ!」

にっこりと笑顔を見せて席を立ち、綺麗に空になった食器に手を伸ばす。そういえば洗剤がそろそろ切れかけだな、って、あれ?

「リュウ?」

リュウに手首をつかまれ、動けない。意味がわからず首をかしげる。リュウを見ると目が合った。

「僕たちの間に隠し事は無し、だろ?」

「!」

覚えて、たんだ。
それは小さいころにリュウとした小さな決め事。2人だけの約束。まさか覚えてたなんて……。たったこれだけのことでもとても嬉しくて、自然と頬が緩む。

「……あのね、リュウがとられたみたいでちょっと寂しいな、って思ったの」

突然いうとリュウはきょとんという表情をした。あ、なんかレアかも。でもこんな表情を見れる特権も私だけのものじゃなくなっちゃったんだなぁ。そう思うと、嬉しいのと同時にやっぱりちょっと寂しい。って、こんなこといったら困らせちゃうかな。
リュウの力が緩んだ隙にするりと手を抜き出す。

「なーんてね!冗談だよ!じゃ、片付けてくるね」

そういって今度こそ私は背を向けた。背後にリュウの立ち上がる音を聞きながら。しかし次の瞬間には、視界が逆さまになっていた。
というより、目の前にリュウのドアップ。その後ろには天上があって、え、天井?これって、もしかしなくても…押し倒されて、る……?

背中には柔らかい感覚。ちょうど机とキッチンの間にあったソファーに押し倒されたようだ。

でも今の私はそんなことを考えていられるほど冷静じゃない。な、な、なんでこんな事態に……!!?

「僕には、名の隣以上に安らげる場所なんて無いよ」

リュウの言葉に名は動きを止めた。やっぱりお見通し、か。せっかく心配かけないように元気に振舞ってたのに、台無しじゃない、リュウ。でも、
「うん……」

なんか嬉し涙出てきちゃうし、許してあげる。ありがとう、リュウ。

「私もだよ……」

それとね、実はもう1つリュウには隠し事があったんだ。
私、リュウのことが好きなんだ。でも今はまだこのままでいいって思ってる。だってもうこんなに想ってもらえてるのに、これ以上望むなんて罰が当たっちゃうでしょ?

それでも、いつか幼馴染じゃなく、恋人になれたらいいな。




君の
(それは誰にも譲れない)(僕だけの特等席)

end.



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>> リュウの幼馴染夢


:: おまけ

「ね、リュウ。そろそろ、その、どいて……?」

「なんで?」

「な、なんでって……」

「名ってふにふにしてて気持ちいいよね。あとなんかいい香りするし」

「……!(リュウ、それ変態発言……!)」

「………(ジー)」

「………」

「………zzZ」

「……ってそのまま寝るなぁ!!!」


今日もこんな感じで楽しくやってます!


ちゃんちゃん。


* * *



ァャメ様、いいいいかがでしたでしょうか……?(滝汗)
え、幼馴染夢……え、あれ?みたいな感じですが、受け取っていただけると幸いです><


07/09/19 初版
10/12/12 改稿 ゆん