Happy New Year!!


ズソー、と麺をすする音が室内に響き渡る。目の前の男は満面の笑みを浮かべて咀嚼しているが、私の表情はきっとしかめっ面だろう。見なくてもわかる。意図してやっているからだ。

長いテーブルの中央にはきれいなろうそくの炎がちらついている。男のそばには執事が控えている。

「どこの誰がこんなきれいなところでカップラーメン食べるんだ」
「はい?何か言いました?」
「いいえ、なんでもありません」

男ことメフィスト・フェレスは緑色の、私こと杉まひるは赤色のパッケージのカップラーメンを食べている。
これはすべてメフィストさんが用意したものだ。指パッチンひとつで。

「ここはきちんと年越し蕎麦食べましょうよ」
「おやァ、美味しくありませんでした?」
「いや、美味しいですよ。あんだけCMしてますし」
「何が不満なんですか。まひるさんはわがままな方ですねぇ」
「なんで私が悪いみたいに…」

メフィストさんは執事のひとにワインを頼んだ。執事さんは当然のごとく了承している。年末はいつもこんな様子なのかな。誰かツッコミが必要だと思う。

「はあ、一年も終わりますね」
「そうですねぇ。まひるさん、今年はどうでしたか」
「……激動の一年でした」
「ク、そうでしょうね」

皮肉やらを込めて言ってみせれば、至極可笑しい冗談かのように笑われた。大方予測していた反応だ。

「では、メフィストさんはどうでしたか?」

その返しは予想外だったのか、メフィストさんの眼が微かに見開かれる。

しばらく頬に手を当てて考えた挙句に、ふっと笑みを浮かべた。

「私にとっても激動の一年でしたよ。貴女がここに来た年ですからね」
「…、そう、ですか」
「ええ。まひるさんのおかげでとても楽しい一年でした」

ポン、とコミカルな音が耳元で鳴った。発生源は私の顔からだ。

いや、だって、メフィストさんがそんな笑い方しながらそんなこと言うと思ってなかったし、ていうか、うっ、顔、熱い。

「どうしました?まひるさん」
「確信犯が!」
「ククッ、相変わらずですね」

照れ隠しのために顔をそらして、グラスの水をいっきに飲み干した。

ゴーン、と時計の鐘の音が聴こえてくる。時計の針が、ふたつとも真上をさしていた。

「明けましておめでとうございます、まひるさん。今年もよろしくお願いしますね」
「……、こちらこそ、よろしくお願いします、メフィストさん」

不本意ながらなんて思いながらも、少しだけ嬉しいとか感じていたりすることは、私だけの秘密だ。



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