※現パロ



男の子特有の騒がしい笑い声が聞こえてきた。隣の部屋からだ。毎年年末恒例のバラエティー番組を見ているのだろう。

大掃除が終わってすっきりした部屋で、私はひとりお茶をたしなんでいた。年越しそばを作らないといけないなあなどと、赤と緑のインスタントラーメンのCMを見ながら考える。

今日は早く寝て、のんびり初詣にでも行こうか。そうしようかな。ぐっと背伸びをし、さっそく年越しそばを作ろうと立ち上がったときだった。

ピンポーン。チャイムの音が鳴り響いた。

「はーい」

カーディガンを羽織ってからドアを開けると、軽く手を上げられた。そこに立っていたのは、私の隣の部屋に住む鉢谷三郎くんだった。

彼は高校生なのだが、何故かこのマンションで一人暮らしをしていた。高校生にしてはめずらしいと思ったものだ。私を姉のように慕ってくれている。弟がほしかった私にとっては、彼の面倒を見るのはちっとも苦にならないことだった。

「鉢谷くん、」
「どうも。小雪さん、実家に帰っていなかったんですね」
「うん。あの、鉢谷くん、お友だち来てるじゃない」
「うるさいからちょっと逃げて来ました。寒いんで入れてください」
「……自由ね、あいかわらず」
「おじゃましまーす」

私の了承なんて訊くこともなく、鉢谷くんはずかずかと部屋に入って行った。もとより断る理由もなかったので、そのまま彼を招くことにする。

「今から年越しそばを作るところだったんだけど、食べて行く?」
「いいんですか」
「こたつに入りながら訊くことじゃないよ」
「じゃ、いただきます」


***



空になった丼を下げて戻れば、鉢谷くんは寝転がってテレビを見ていた。私が運んできた緑茶を見るとすぐに湯のみを手に取った。

「鉢谷くん、もう一時間近くここにいるよ。お友だちはいいの?」
「小雪さんって男をこんなに簡単に上げるひとなんですか」
「質問の答えになっていないんだけど」
「いいから、答えてください」

起き上がってこちらを見た彼の目は本気だった。これは、彼なりの心配なのだろうか。そっと彼から目を逸らす。

「そんなことないよ」
「私だって男だ」
「鉢谷くんは弟みたいなものだから」
「っ、」

がたん。

鉢谷くんは突然立ち上がって私の肩を押した。重力に逆らうことなく私は倒れこむ。彼は傷付いたような顔をしていた。

なるほど。やっと鉢谷くんの言葉の意味が解った。

「ごめんね、鉢谷くん」
「何がですか」
「弟みたいっていうの、取り消すね」

「……私はあなたが好きです」
「うん。ありがとう」
「返事はないんですか」
「私も鉢谷くんのこと好きだよ」
「それは恋愛対象ですか」
「どっちだと思う?」
「また、そうしてごまかすんですか」
「大人はずるいんだよ」
「本気で聞いていますか」
「うん、うん。聞いてる」

傷付いたような表情から、泣きそうな表情になってしまった彼の頬をやさしく撫でる。

「鉢谷くん、私は鉢谷くんのこと、恋愛対象として好きになれそうだよ」

上からでごめんね。小さくそう呟くのを、彼は不思議そうに聞いていた。

「今日いきなり言われたから、まだ恋愛感情を持っていないだけ。でも、鉢谷くんのことはいつか好きになりそうな気がする。ほぼ100パーセントね」
「……口が達者ですね」
「大人だからね」

くしゃりと強張った頬を崩して鉢谷くんは笑った。やっと、笑ってくれたね。

「さ、鉢谷くん。そろそろどいてくれるかな」
「このまま続きはいかないんですか」
「いかないよ。紅白観たいし」
「私よりテレビですか」
「今は、ね」

しょうがない。そう言って彼が私の上から移動しようとした。

ピンポーン。

「おーい、三郎!おまえ途中ですっ飛ばして何してんだ…、よ…?」
「三郎、ラーメン冷めちゃった…、えっ」
「なんだ、どうかしたのか」
「兵助、リモコン持ったままどっか行かないでよ」

鉢谷くんのお友だちである彼らは、家主の返答を待つことなく玄関のドアを開けてくれた。おかげで玄関から真っ直ぐにあるこの部屋が丸見えだ。

鉢谷くんの顔から、さっと血の気が引いた。

「おほー、三郎、お前も大人の階段を上ったってわけか!」
「さ、さ、さぶろう、おまえ、」
「ほら、雷蔵。邪魔したら悪いのだ」
「じゃあ俺ら帰るから。続き、楽しんでね」
「ちょ、ちょっと待てお前ら!」
「鉢谷くん、とりあえず下りよう」

どうやら今年は騒がしい大晦日になりそうだ。





大晦日ドッキリ企画


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