きれいに並べれたごちそうの数々をひとつずつ見回して、それぞれの出来に満足げに頷いてみせる。よし、よく出来た。

今日はクリスマスであり、奥村兄弟の誕生日パーティーの日である。昔からこの教会によく通っていた私は、本日そのお手伝いとしてかりだされたわけだ。まあ、いつものお礼だと思えばなんてことはない。
生憎共に過ごす男なんていないし、友人らはそういう男共と過ごすそうだ。別にひがんでなどいない。

私は私なりに、楽しむのだ。

「小雪、」

ひとり決心を固めてこぶしをつくっていると、教会の神父さまである藤本神父が現れた。手にはボウルが握られていて、それがひどく似合っていなかった。

「藤本神父、どうかなさいました」
「あいつらのケーキの生クリーム、味見してみてくれ」
「はい」

それでも平静を装ってボウルを受け取り、中の甘そうなクリームをひとくち舐めてみた。うん、甘い。

「おいしいです。問題ありません」
「そうか」

ほっと安心したように息を吐いたかと思うと、唐突に「悪いな」と呟かれた。びっくりして藤本神父を見上げていると、困ったように眉を下げていた。

「いや、クリスマスなのにこんなこと手伝わせちまって」
「あ、ああ、気になさらないでください。どうせ予定もありませんでしたので」
「だが年頃の娘だろ?ボーイフレンドのひとりやふたり、」

そこまで言ってから、ようやく私の表情に気が付いたようだ。ムスッとして口を尖らせた私はたいへんみにくいだろう。しかし、こうせずにはいられない。
藤本神父は目を右往左往させたり、「あー」と呟いたり、私にかける言葉を捜しているようだった。

なんだか申し訳なくなって、深く息を吐いた。

「ボーイフレンドのひとりもふたりもいません。それがなにか」
「い、いや、そうか。…小雪は好きな人もいないのか」
「はい。なにしろ男運がありませんので」
「……そうか」

フム、とあごを撫でながら藤本神父はじっと私を見つめた。どうかなさったのだろうか。

急に黙ったかと思えば、今度は急にニヤリと笑った。

「どうかなさったのですか、藤本神父」
「小雪は彼氏も好きな人もいねェんだな」
「追い打ちをかけていらっしゃるのですか」
「いンや?ふーん、そうかそうか、」
「な、なんなのですか」

ニヤニヤ。いやしい笑みを浮かべている藤本神父は、初めて見た。
いつもはあんなにしっかりしていてかっこいいのに。今じゃいたずらを考える子どものようだった。

ボウルをわきにあったテーブルの上に置き、そのまま固定電話へと向かう。慣れた手つきでダイヤルを回し、誰かへと電話をし始めた。

「おう、俺だ。予定では三時だったが、ちょっと手間がかかってな、悪いが六時まで先延ばしに出来るか?―――ああ、頼んだぞ」

三時。その数字には聞き覚えがある。確か、奥村兄弟が帰宅してくる時間だ。つまり、今の電話はそれを遅らせる電話ということか。
しかし、今の進行状況であれば予定通りでも時間が余るほどのはず。それを藤本神父は何の意図を持って遅らせたのか。

チン、と藤本神父が受話器を置いた途端に、何故か悪寒を感じた。なんだろうか。

「よし、これで六時までは余裕があるな」
「藤本神父、いったいどうなさったのです」
「いやァ?小雪は彼氏も好きなヤツもいねェんだからな、」

そう言い放つ藤本神父の表情は、まるで悪魔のようで、

「今日は聖夜だ。主も少しくらいは赦してくれんだろ」
「ふ、藤本、神父、…?」

絡み取られた指先に、口付けが落とされる。

「メリー・クリスマス」

まるでその赤い眼に睨まれ石になってしまったかのごとく、私の身体はすっかり固まってしまっていた。





聖夜はこれから


mokuji