「メリー・クリスマス、ハニィー」
待ち合わせ場所に現れた橙色の冗談に苦笑いを返した。
「クリスマスには、まだ早いよ」
手首の銀色に光る時計を見ると、ちょうど午後十時をさしたところだ。あと二時間でクリスマスだ。
冷たくなった両手に白い息を吹きかける。それでも寒い。両手を擦り合わせていると、バドーは持っていた紙コップをわたしの顔の前に差し出した。
「さっきもらってきたばっかだから、あったかいぜ」
「バドーはいいの」
「じゃ、ポケット貸して」
「どうぞ」
紙コップの中身はブラックコーヒーだった。いつもは飲まないけれど、試しに飲んでみた。少し苦い。
わたしの後ろに立ったバドーは、あごをあたまに載せて両手をポケットに突っ込んでいた。さっきからしきりに寒いと繰り返している。わたしはバドーに包まれているから、寒いのは鼻の頭だけだった。
「ハイネは」
「ニルんとこ。クリスマスに教会なんて粋だよな」
「目的はきっとちがうだろうけど」
「はは。だから、ぼっちの俺はガールフレンドと過ごすわけです」
その台詞と共に髪の毛にキスされてしまった。見えていないけど、感触で分かる。照れてしまった顔を隠すために苦いコーヒーをちびちびと飲んだ。
「それはそれは。でも、イヴだよ。なにも朝帰りするつもりじゃ、」
「ん、今日はおまえの家に泊まるから」
ぴたりと止まったわたしの指先は、赤色に染まっていた。
「バドーくん、そういうことは早く言って。部屋を片付けていないよ」
「兄貴の部屋よかきれいだろ。それに、わざわざ整頓された部屋とか息苦しくていてらんないぜ」
「わたしの気持ちの問題なんだけどな」
「まあまあ」
軽く笑ってはぐらかして、たばこをくわえた。ごまかすときはいつもこうだ。マッチを擦る音が聞こえる。いつもの煙のかおりが漂う。
空からゆっくり、白色が落ちてきた。
「メリー・クリスマス、小雪」
バドーの手がポケットから抜き取られる。そこに違和感を感じ、そっと確認してみれば赤色と緑色のラッピングがほどこされた小さな箱が入っていた。
思わず笑いがこみあげてきた。
「だから、今日はクリスマス・イヴだってば」
カチリ。
銀色の時計の針が、今宵も黒色の文字盤の上を滑ってゆく。
色鮮やかな白色