無色に帰せよ 04

そうして再びわたしはあの部屋に戻された。


「なに、着替えさせたの」
「これなら暗器が服にあっても問題ないでしょ」
「まあなぁ…」


ボスの男の前にまた座らされる。わたしは相変わらず震える身体を押さえながら、そちらを見上げた。おかま疑惑男のときには止まっていたのに。


「ガキ、てめえは仲間が分かるまで此処で監禁することにしたぁ」
「か、監禁…」
「しばらくは生かしといてやるってこと」


良かった。まだ殺されない。その安心だけで、今は満足できる。


「連れて行け」
「カエル、てめえが行け」
「えー、なんでミーがー」
「センパイの言うこと聞けよ」
「ちっ」


また同様に俵担ぎにされた。今度はカエル男にだ。そのまま退室する。他の男らはあそこに残るようである。わたしは黙って連行されることにした。とりあえず、ゆっくり考えたい。


「本当にただのガキンチョですねー。仲間も居ないみたいですしー」
「……」
「炎を無効にする能力っていうのはスゴイですがー」
「……」
「監禁って、何されるか分かりますー?」
「…、な、何かされるん、です、か」
「当たり前ですよー。監禁なんて、えろい言葉じゃないですかー」
「えっ、え、」
「此処は男ばっかりですからー、気を付けた方が良いですよー。多分無理ですが」
「そ、んな、」


命は長らえるけれど、そういう危険を伴うということなのか。どうしよう。それに耐えられるというか抵抗できる自信はない。だって、此処暗殺部隊じゃないか。再び血の気が引く。そんなわたしを、カエル男はじっと見ていた。


「可哀想ですねー。こんな所に来たばっかりにー」
「望んで、来たわけじゃ、ないのに…」
「誰かに連れて来られたんですかー」
「分かりません…。普通に、学校に行っていた、だけなのに…っ」
「…尚のこと可哀想なガキンチョですー」


その言葉に感情は込められてはいない。ただ端的に、それが事実だと告げるように言葉が紡がれる。また視界が潤んできたが、泣いてもなにも変わらないことはもう分かっている。下唇を噛み締め、なんとか涙を落とさないようにした。


「そういえば、なまえはなんていうんですかー?」
「な、まえ…。青原はるき、です」
「……、日本人ですかー。イタリアに来たことでもあるんですかー?」
「イタリアに、は、来たこと、ないです」
「じゃあイタリア語の知識でもー」
「ありません…。あ、あの、なにか」


カエル男は疑惑の眼差しをこちらに向けた。ざわりと背中が粟立つ。


「ミーのことば、分かりますよね」
「…わ、分かります。日本語、です、から」
「ちがいますー」


首を振ったカエル男に、思わず絶句した。わたしに聞こえることばは、たしかに日本語なのに、


「ミーたちが喋っていたのは、イタリア語ですよー」


ひゅう、と喉の奥を空気がかすめる。


「イ、イタリア、語?で、でも、わたしには、ちゃんと日本語に、聞こえます」
「……じゃあ、これは分かりますかー?」
「えっ、に、日本語」
「ミーはいまフランス語で喋りました。どうして分かるんですかー?」
「ぜんぶ、日本語にしか、聞こえ、ません」


どういうことだ。耳を伝って脳に届く彼のことばは、たしかに母国語の日本語だ。だからすべて理解できる。だというのに、彼は言語を変えて話していると言うのだ。


mokuji