無色に帰せよ 01

青原はるき、この世に生を宿して十六年。只今、










生命の危機に直面しております。


「へ、ヘルプミー…」


!!!!




「ししっ、今更命乞い?」
「侵入者は全員排除よーン」
「此処まで入って来られたことはスゴイことですー」
「余程の実力者だな…!俺がやる!」
「う゛ぉおおい!ゴチャゴチャ言ってねえでさっさと殺れェ!」


「ひい、物騒な単語があ…!」


現在目の前には男が五人、立ち並んでいる。若干おかま疑惑のある方が居るが、きっと男だ。私はお手上げの意を示すべく、両手を上げる。しかし、聞く耳は持たないようだ。


どういうことだ。わたしはただ、学校から帰っていただけなのに。どうして何時の間にかこんな所に居るのだろうか。男らの背後に聳え立つ城の様な建物、私の背後に広がる森林。明らかに異国の地だ。どういうことだ。わたしは日本に居たはずなのに。


「しっかしこんなガキがあの中を通り抜けられるとは思えねぇけどなぁ…」
「誰かの手引きがあるんじゃねーの」
「ならば、それを聞き出してからの方が良いな」
「ちっとくらい痛め付けておいた方が良いんじゃないんですかー」
「それもそうねぇ、ボスの所に連れて行かなきゃいけないし」


取り敢えず少しばかり寿命は延びたようだが、怪我はしてしまうようだ。あの様子だと、逃げても確実に追い付かれる。もうコマンドが諦めるしかない…!


「なーに考えてんの」
「ひッ、うあ、」


一人悶々としていると、前髪で顔の半分が隠れている男がわたしの目の前に来ていた。片手で私の手首を捕らえ、もう片方の手でナイフをちらつかせている。さっと顔から血の気が引いたのが分かった。


「ほんとにただのガキだなー。何処のマフィア?」
「い、いや、殺さないで、ください」
「まだ殺さねーよ。きちっとゲロっちまってからな」


足がすくむ。震えが止まらない。涙も出てきた。いやだ、死ぬのはいやだ。痛いのもいやだ。まだ、まだ死にたくない。


「なにこいつ、演技?」
「センパイさっさと拘束してくださいよー。もうみなさんボスの所行きましたよー」
「あ?王子に指図すんな」
「めんどくせぇこと言ってないで早くしろっつの堕王子」
「カッチーン、やっぱお前殺してからにする」
「ぎゃー助けてくださーい」
「早くしろっつってんだろうがぁ!!」


結局前髪が長い人と大きな蛙の被り物をしている人は、無駄にロン毛な人に殴られていた。わたしはロン毛の人に両手首を押さえられ、そのまま歩かされる。これから何をされるのだろうか。尋問?暴力?―――本当に恐ろしくなってきた。歩みを進めるものの、足が震えて上手く歩けない。


「……てめえ、本当にビビってんのかぁ?」
「ひ、う、」
「声も出ねえってか…。じゃあオトリか捨て駒かぁ?」


ロン毛の男の言葉に返答も出来ない。どちらも違う。わたしはただの一般市民だ。どうしてこんな物騒なところに。
先程、前髪が長い人が「マフィア」と言っていた。しかし、そんなもの外国じゃない限り居ないはずだ。この日本にそんなものが、あるわけがない。―――否、私が知らないだけかもしれないが。ああいやだ。そんなの、居ないって思いたい。


「着いたぞぉ」


ロン毛の人の言葉に意識をこちらに戻す。背中を押されて倒れこんでしまったが、すぐに起き上がった。痛い。周りを確認しようとすると、ぞっとするような悪寒に襲われる。その恐ろしい気配の方を見ると、そこには豪華なソファに腰掛けた、顔に傷のある男が居た。その人から、恐ろしい視線が送られている。わたしの頭の中には、ただ恐怖だけしかなかった。


「こいつが侵入者か」
「そうだぁ」
「…殺るなら勝手にしろ」


くあ、とその男は欠伸をして、面倒臭そうに手を振った。それを確認した男らは、わたしを取り囲む。口ピアスをしている男が、私の前髪を引っ掴んで持ち上げた。


「いっ、」
「貴様、何が目的で此処に侵入した!?」


「レヴィったら、乱暴ねぇ」
「ボスに良い所見せたいんだろ」
「あれじゃ吐くもんも吐けませんよー」


「答えろ!ボスの命か!」
「ちが、い、ま」
「何処のマフィアだ!?」
「マフィアなんか、入って、いま、せん」
「無所属だと?」
「わた、しは、ただの一般市民です、っ」
「しらばっくれるな!!」
「ほんと、です!」


語尾を強めて言うと、口ピアス男は額に血管を浮かび上がらせた。恐ろしい形相で、わたしを見据える。そして、急に前髪をその手から離した。重力に逆らうことなく、わたしは床に顔を打ち付ける。


「貴様!戯けたことを抜かすと、」


口ピアス男は徐に指に嵌めている指輪をわたしに見せつけた。何をする気なのだろうか。あの指輪だらけの手で殴る気であろうか。そんなの、確実に血が出る。


「俺のこの雷エイで…、っ、なんだと!?」
「何だぁ」



「ほ、炎が灯らぬ…!」



mokuji