ふつうガール 03
「はつこちゃぁああああんんんん!!」
「ひっ、ごっごめんなさいごめんなさい!」
思わず謝ってしまいました。びっくりするとすぐに謝ってしまうくせは直す必要がありますね。今日からがんばりましょう。
さて、向き直って確認してみますと、とても恐ろしい形相の志摩くんが私の肩を掴んでいらっしゃいました。それだけで泣きそうになります。
「ししししし志摩くんごめんなさいっ!あの、私、えっと、ごめんなさい!」
とりあえず謝ることにしました。たいていこういうときは「何をしたっけ?」と頭にハテナマークを浮かべるところなのですが、生憎私には思い当たる節があるのです。ええ、昨日のことです。
「ごめんなさいごめんなさい!志摩くんの趣味を邪魔してごめんなさい!もう告げ口したりしませんから!ごめんなさい!」
「お、おお…そんな、必死に謝らんでもええよ…」
私があまりにも頭を下げるものですから、志摩くんがドン引きしていました。ああ、とても引かれていらっしゃいます。
……私の高校生活が終わった音がしました。これからどうしましょう、志摩くんのようなおモテになられる方に「植野はつこキモ」とか言われてしまったら、学園中の女の子に「えーあれが植野はつこー?たしかに地味―きもー」「てかふつーすぎて特徴なっ」「モブっぽーい」とかヒソヒソ言われてしまうのですね。
ああどうしましょう。お母さん、はつこ人生最大の危機です。確かにひとつも間違ったことはないのですが、それでも他の方に言われると自分で言うよりも百倍ダメージを受けてしまいます。学園を卒業するまでには私のハートは粉々に砕け散って跡も残らなくなってしまうのでしょう。お母さん、どうかそちらに行ったらしかと慰めてください。お願いします。
「あのー、はつこちゃん…?」
「はッ、すっすみません!自分の世界にこもってすみません!」
「だ、だいじょうぶなん?逆に心配になってきたわ…」
「だいじょうぶです!」
「そうなん、ならええけど」
志摩くんはにっこりと笑いました。あ、かっこいいです。モテるのがよく分かります。ハートが「きゅん」とか…、すみません。何でもありません。
「で、はつこちゃん。俺がなんで来たか分かっとるよな?」
「はいっ分かっておりますっ。勉学に勤しむためですよね!」
「ちゃうわ!いやそうやけど!」
「冗談です!」
「はつこちゃんって意外とテンション高いんやなぁ」
「えっ」
「もうちょっと地味な子かと思っとったわ」
グサリ。私のハートに100のダメージです。既に瀕死です。誰かきずぐすりを下さい。
「まず、はつこちゃん気付いとったんやなぁ」
「は、はい。恐縮ながら、その、あの、隣に視線を向けたときにですね、うう、うっかり見て、しま、」
「そんな怖がらんでええよ」
「すみません!」
そうは言いましても志摩くんの笑顔はとても恐ろしいのです。笑っているはずなのに、何処か追い詰めるものがあります。私は非常に危険なことをしてしまったのです。今更ながら、後悔しました。反省タイムのあたたかい緑茶は抜きにしましょう。これは罰です。
ああ、周りのひとはみんな私達に注目しています。ひそひそと小声で何か言われています。きっと「植野はつこみたいな地味な子となんで志摩くんが話してんの?」「ムカつくー」「植野さん、なんかでしゃばりすぎじゃない」「志摩くんに何したのよ」みたいなことを言われているのです。
いえ、クラスメイトを侮辱するつもりは全くありません。陰口ではないのです。全て事実ですから。クラスメイトのみんなは何一つ間違ったことを言っていませんから、陰口ではありません。
「で、なんで子猫さんに言ったん?」
「そ、それは、ですね、その、し、視界のっ」
ああ、駄目です。涙が出てきました。もう、逃げ出してしまいそうです。どうしましょう。
「志摩、そこらへんにしといたら?」
そんな私に舞い下りたのは、光り輝くヒーローこと曽我部くんでした。