ふつうガール 02



三輪くんを呼んでいただいて、廊下の窓際に立って事情を説明することにしました。三輪くんは不思議そうに首を傾げています。


「あの、私、隣のクラスの植野はつこというのですが…」


やはり最初は自己紹介からでしょう。おずおずと述べた名前に、三輪くんはポンと手を打ちました。なんでしょう。


「あ、志摩さんの隣の席の方ですね」
「そ、そうです!あの、そ、そのことなんですが…」
「はい」


三輪くんも笑顔がすてきな方です。すてきというか、とても母性本能をくすぐられます。かわいいです。あ、失礼でしょうか。しかし、確かなことなのです。


「志摩くんが隣の席で、その、あの、いかがわしい、雑誌をですね…、読んでいるんです…」


やはり、こんなことを相談するのは恥ずかしいです。口にするのもためらわれることだというのに、ほとんど初対面に近い三輪くんに話すなんて、今更ながら後悔します。


「それが授業中も続きますので、その、目のやり場に困りまして…。大変申し訳ないのですが、三輪くんなら、ど、どうにかしてくださるかなと、勝手ながら思いまして…」


それにとても身勝手なお願いですし、言ってみれば「知ったことか」「関係ない」ことなのです。ああ、曽我部くんの笑顔に背中を押されたからって、こんなこと言いに来るべきではありませんでした。


「すっすみません!やっぱり今言ったこと忘れてください!何でもなかったことにしてくださいっ」


勝手に喋って、勝手に終わらせようとする私はなんて勝手で自己中心的なんでしょうか。今日の反省タイムはいつもより長めに取らなければいけません。私の馬鹿。あ、涙が出てきました。女の子だもんなんて、言えません。こんなところで泣いては、三輪くんにより一層ご迷惑をおかけすることになってしまいます。我慢です、我慢。


やや視線を上げて三輪くんを見ると、三輪くんはとても柔らかく微笑みました。そうして、首を横に振りました。


「いえ、ええんですよ。でも授業中も読むなんて、しかも女の子が隣の席やのに…。伝えてくれはってありがとうございます。僕からきちんと言うておきますんで」
「あっありがとうございますっ!すみません!お手数を…」
「そんなことありませんよ。自分で言うのは難儀なことですからね」
「みっ三輪くん…!」


なんていいひとなんでしょうか。三輪くん、ほんとうに尊敬します。こんなに寛大な方に出会えるなんて、今日はきっといい日です。私が少しドジを踏んでしまった日ですけれど。


「ありがとうございます!すみません、お願いします!」
「はい。またなんかあったら言うてください」
「は、はい…!」


涙で視界がかすみそうです。「一生アンタについていくぜ!兄貴!」です。


「それじゃあ、今日の放課後にでも言っておきます」
「ありがとうございますっよろしくお願いしますっ」


何度も頭を下げて三輪くんと別れました。終始笑顔な三輪くん、すばらしいです。憧れです。尊敬するひとがまた増えました。お母さんに伝えなければ。


それでは、今日のお務めは終了しましたので、私も自分のクラスに戻るとしましょう。少しだけ浮かれた足取りで教室へと歩みを進めました。



mokuji