ふつうガール 01



はじめましてみなさん。植野はつこです。ご存知ないかと思いますので、しっかりご挨拶したいと思います。


わたくし植野はつこは正十字学園普通科一年で、成績は中の上、運動は中の成績なごく普通の女子です。平々凡々がお似合いの私には、これといった特徴もありません。
だから、紹介することも特にありません。悲しい人間です。もっとこう、個性とかがあればいいんですが、生憎そんなものはないのです。虚しい人間です。


ちょこっとネガティブな自己紹介になってしまいました。朝からこんなことでは、士気が下がるばかりです。ただでさえ憂鬱な授業が続いているといいますのに。


さて、これからある朝のSHRを真面目に聞くとしましょう。担任の先生の話はとてもつまらないですが、頑張って聞かないといけません。私はこれでも真面目なのです。


がたん。隣で椅子が音を立てます。びっくりしましたが、平静を装います。毎度のようにびっくりしていては、変な子だと思われかねないからです。でも、やっぱり慣れないものなのです。


「あ、おはよぉさん。はつこちゃん」
「おっおはようございます、志摩くん…」


私の隣の席である志摩廉造くん。彼は人工的な茶髪と垂れ目、それから額の傷が特徴的です。その外見だけにとどまらず、性格もなかなか個性的です。女の子と仲良くすることが得意なのです。あんなにハートを飛ばしながら会話ができるひとを、私は初めて見ました。尊敬に値します。


尊敬はしていますが、それでも苦手なものは苦手です。何が苦手かといわれますと、その、志摩くんのご趣味が苦手なのです。


ちらりと盗み見ていただければ、分かるかと思います。彼は隣の席で健全な少年がよく読みます不健全な雑誌を広げているのです。女のひとが挑発的な、間違えました、誘惑的な視線を送ってきています。その姿は最早裸と言っても過言ではありません。うう、見るに耐えなくなって視線を横にずらします。


私の反対側の隣の席は、曽我部くんといって笑顔がすてきな爽快系男子です。彼はとてもお喋りが上手なので、こんな平凡な私でも楽しんで話が出来ます。


志摩くんがそういういかがわしい雑誌を広げると、私は決まって曽我部くんの方を向きます。それ以外に視線のやり場がないのです。前も斜めも、どうしてもすみっこに入ってしまいますから。


「植野、どうかしたのか?」
「は、はいっ!いっいえ、な、なんでもありません!」
「はは、声でけーよ。朝から元気だな」
「う、すみません…」
「謝ることねえって。あ、そうだ。今日の数学の課題した?」
「はい。もう終わっています」
「見せて!おねがい!」
「わ、私のものでよければ、どうぞ」
「まじで?さんきゅー」


ニカッと歯を見せて笑う曽我部くん。とても爽やかです。涼しい風に青い木の葉が飛ばされてきそうです。私はとても涼しい気分で曽我部くんにノートを渡しました。「字、きれーだな」と褒めてくれました。やっぱり、曽我部くんは優しくていい人です。


それにしても、いつまでも曽我部くんの方を向いているわけにもいきません。曽我部くんが不快に思うかもしれませんし、「あの子、曽我部くんが好きだなんて図々しいわ」なんて噂が立ってしまう可能性もあります。そんなことになっては、とても困ります。女の子はとても恐ろしい生き物なのです。


確か、隣のクラスの三輪子猫丸くんと親しいとよく話しているのを見かけますので、三輪くんに相談してみましょう。告げ口をするようで少し気が重くなりますが、これも曽我部くんのため私のため。頑張ります。


志摩くんの趣味を邪魔してごめんなさい。心の中でそっと謝って、席を立ちました。



mokuji