赤ずきん 03




ドアを開けた先は、立ち篭る煙の所為で何も見えやしなかった。思わず咽返ると、メフィストがくつりと笑いそれから上を見上げる。


「ああ、いますよ、彼女」
「ど、何処に…」
「あちらに」


メフィストの指先がとある屋根の上を向く。雪男もそちらを目で追うと、そこには赤いローブを靡かせる少女が一人、立っていた。―――両手にライフルを構えて。


「こちらの存在を知られては厄介ですねぇ…。奥村先生、あなたがオトリになってください」
「僕がですか」
「はい。その間に私は彼女に近付きます」
「…分かりました」
「では、宜しくお願いしますよ。アインス、ツヴァイ、ドライ」


パチン。指を弾いたかと思うと、瞬く間にメフィストは居なくなってしまっていた。
雪男はそっと溜息を落とし、銃を構える。そして、未だに蠢く悪魔らに銃口を向け、走り出した。


それに気付いたのか、赤いローブの少女の顔が下がり、こちらを見据える。


―――!


少女が、ニィと口角を吊り上げたように見えた。


〈祓魔師ォ〉
「っ、!」


少女に気を取られ、油断していた。背後に悪魔の爪先が、銃口は別の悪魔に向いている。


やられる!そう思ったときだった。視界が、真っ赤になる。


「はじめまして、狼さん。赤ずきんです」
〈ギャァああァああああアア赤ずきんめェエええ〉


銃声が響いたときには、既に悪魔は地面に崩れ落ちていた。雪男は目を見開き、その赤を見る。


「意外と若いんだァ。次の猟師さんは君なの」
「き、君は…」


煙が渦巻くその中で、くるりと赤がこちらを向く。そして、首を傾げながら微笑んだ。


「はじめまして、赤ずきんです」


雪男の嗅覚が、甘い花の匂いを捉えた。



mokuji