赤ずきん 02




「赤ずきん、って、血肉を悪魔に好まれる一族の、」
「ええ、その通りですよ」


流石は奥村先生。半ば揶揄するようにメフィストは言った。


“赤ずきん”とは、その血肉を悪魔に好まれる一族の総称である。確か、祓魔塾の授業でも習った筈だ。


その一族が、今正に悪魔と戦っている。そういうことか。


「純血の赤ずきんの末裔なんですがねえ、彼女が少々厄介な人でして」


ふう、と微かに溜息を落とす。


「所謂、無免許の祓魔師なんですよ。彼女が」
「無免許…」
「はい。祓魔師の試験を受けず、勝手に悪魔を祓っているんです」
「そんなことって、可能なんですか」
「ええ、知識と能力があれば誰でも出来ることでしょう。しかし、勝手にやられてはこちらとしても困ります」


メフィストは手を組み、それに顎を載せた。光の当たり様か意図的か、彼の表情が陰る。


「ですので、彼女を保護したいのですが、実力があるがために中々上手く行きません」
「つまり、その赤ずきんが今悪魔と交戦しているので、祓うと同時に身柄を保護してしまおうということですか」
「その通りです」


指を鳴らし、雪男の解答に口角を吊り上げるメフィスト。


「ご協力願えますか」
「勿論です。僕で良ければ」
「ありがとうございます。では、早速ですが参りましょう」


メフィストは懐より鍵を出し、大きな歩幅でドアへと向かう。鍵を差し込もうとするメフィストに続き、雪男も慌てて腰を上げた。


「いいですか、彼女はかなりの強敵です。油断はしないようにしてくださいね」
「分かりました」
「気をつけないと、――――殺されますよ」


子どもを怖がらせるかのように、低い声音でピエロは愉快そうに告げる。未だ幼い祓魔師は苦笑いを返し、手元の銃をきつく握り締めた。



mokuji