正十字学園図書館司書より 05



「行きますよ。随分待ったんですから」
「ちょっとおじさん、何言ってんの」
「そんなこと言ってさ、どうせ知り合いじゃないんだろ?」


まあね。


漫画的展開に再び苦笑が漏れる。どうやらこの人は私を助けてくれるみたいだ。有難い。


「そういうのはさぁ、漫画だけにしてほしいよなぁ」
「本当ですよ、ねえリンさん」


誰だリン。
そう思ったが、私は此処は免れる為に必死で首を縦に振った。


「ええ。フジワラさん」


ちなみに、フジワラというのは私の彼氏だった人の苗字だ。少し拝借するとしよう。


ついに強行手段に出たのか、フジワラ(仮)は私の腕を掴んで勢い良く引っ張った。男二人よりもかなり強いその力に私は前のめりに倒れそうになる。
が、フジワラ(仮)が私を受け止めてくれた。良かった。
男二人は唖然としている。


「ちょ、何すんだよこのくそじじい」
「言葉遣いが荒いですね。全く、近頃の若い者は……」
「その女は俺らと遊ぶんだよ」
「分かり易い嘘ですね。早く車に乗ってください、リンさん」
「わ、あ、はい…」


誘拐じゃないかとかは思ったが、私は取り敢えずそのど派手なピンクの車に乗り込んだ。思っていたよりも異様な長さに驚愕しながらも、ふかふかな椅子に座る。というか、この車は何時此処に来たのだろうか。


男二人を無視し、フジワラ(仮)も車内へ。そのまま急いでドアを閉めてから、「発車しろ」と先程よりも低い声で運転手に告げた。
え、偉い人だ。


「あの、有難う御座います。助けてくださって」
「いいえ。申し訳ありませんが、暫くドライブに付き合ってください。未だ追ってきているかもしれませんから」
「は、はい…」


最早頷く他なかった。






誘拐は犯罪です


mokuji