正十字学園図書館司書より 03



落とした漫画は流石に購入しなくては不味いと思い、二巻であるそれに金を払った。ブックカバーも付けて貰い、バッグにそれを押し込む。


嫌な汗が止まらない。心臓は相変わらず速い鼓動を刻んでいる。頭がおかしくなりそうだ。




まずは、冷静にならなくては。




近くに喫茶店があったので、私はそこに足を進めた。チリンとドアの鈴が鳴る。それさえも不快に感じてしまい、早く席に着きたくなった。


窓際の空いている椅子に座り、店員にコーヒーを頼む。愛想良く笑われる。
無視。胸が痛む。


湯気の立つカップを受け取り、熱いのも構わず一口飲んだ。カラカラだった喉を潤す苦い液体に、肩の力が緩む。


ああ、やっぱり落ち着く。コーヒーは私の精神安定剤と言っても過言ではあるまい。
カップを置き、ホッと安堵の溜息を吐いた。




頭が冷えた。もう一度、考え直してみよう。




一、私は帰宅最中に友人に借りた漫画を落とした。
二、買い直さなくてはと考えながら俯いていた顔を上げるとそこには知らない景色が映っていた。
三、何故か漫画を買おうと思い立ち本屋を探すと自宅近所の本屋を見つけた。試しに自宅を探してみるが見つからなかった。
四、本屋で漫画を探すがそれに近いものはあったが本物はなかった。
五、近いものはタイトルに含まれる色が違うだけであり見たところ内容も類似しているようだった。
六、そのタイトルは本物で登場していた。
七、正式に売られているようなので二次創作ではないようだった。




結論、此処から考えられることは―――いや、止めておこう。まだそう決め付けるのは早い。





此処が自宅付近ではないことは理解した。では、何処なのだろうか。


そう思い、バッグから携帯を取り出した。開いて見れば、ちゃんと動くようである。マップを開き、現在地を調べた。
表示されたのは、何処か見覚えのある――だけども知らない住所。


ああ、そんな。直ぐにアパートの住所を入力した。検索結果は、確かに存在した。しかし、付近には知らない店名や公園が表示されている。
落ち着いた筈なのに、再び速まる鼓動。背中を伝う汗。震える指先。




違う。此処は、私が居た所ではない。此処はもしかしたら―――、











漫 画 の 世 界 な の か も し れ な い。





「はは、はっ」


渇いた笑いが、喉から零れた。







精神安定剤と結論


mokuji