正十字学園図書館司書より 01


バスに乗り込み、ぼうっと窓の外を眺める。窓外は曇天が広がっており、最近の天気の悪さを物語っていた。どうにも、天気が良くならない。この秋にこれでは洗濯物が溜まってしまいそうだ。静かに溜息を落とす。
こんなことを悩んでいてもどうにも現状は変化しそうにないので、諦めて視線を逸らした。


そういえば、友人から漫画を借りていた気がする。それでも読んで暇を潰すとしよう。早速バッグの中からブックカバーで覆われたそれを取り出した。


やたらと面白いを連呼してくるのではてどんなものかと借りてみたのだ。一巻を借りてまあ面白いなと思いながら返却すると、既に二巻を持って来て私に押し付けてきたのである。
若干引き気味にそれを受け取ったのが今日だ。早速一頁捲る。


一巻では主人公の養父が悪魔の親玉である魔神の手によって亡くなり、その仇討ちの為に主人公の少年が祓魔師になると決意表明をしていた。つまり、それになる為の話が始まるのであろう。
確かにありがちなストーリーではあるが、興味は引かれるものである。感想も求められている為、私は真剣に台詞を目で追った。


《次は、―――》


私が降りる予定である停車場を読み上げるバスのアナウンスが聞こえ、慌ててボタンを押す。キンコーンと音が響いたのを確認し、再び漫画に目を落とした。
後何頁読めるであろうかと考えている間に、バスはブレーキを踏んでしまった。どうやら相当熱中してしまったようだ。あんなに言っていた割に興味津々な自分が居ることに気付き、少しばかり友人に謝罪をする。心の中で。


未だ読み終えていない頁を指で押さえてから立ち上がった。ICカードを機械に押し付け、肌寒い外に出る。やはり空は灰色だ。水溜りがあちこちにあるにも関わらず、私は漫画の頁を捲り続けた。




――*――*――





ばしゃん。


「あ、あ!」


やっと自宅が見えて来て安堵したそのときだった。うっかりしていた。手を、滑らせてしまった。視界の先には、濁った水とそれに沈んでいく書物。
って、呑気に見ている場合ではない。拾い上げなくては。私は濡れるのも気にせず漫画を取り上げた。既に水は染み込んでしまって、薄い紙を折り曲げ黒い文字を歪ませていく。私は悲観の声を漏らした。


どうしよう。友人の漫画を、濡らしてしまった。このまま返せば、確実に憤怒される。
ならば、買い直す他あるまい。ブックカバーを確認すると家の近くにある書店の名前が印刷されていた。よし、今からでも買いに行こう。


取り敢えずはこれを捨てるのも勿体無いので、家で乾かしてみるとするか。そう思い、私は水浸しの漫画を指先で摘みながら顔を上げた。






―――え、なに、これ。






私の視界には自宅であるアパートや一般的な住居が建ち並ぶ住宅街が映る筈なのだ。だというのに、私が見えるのは全く見覚えの無い都会の街並み。


「神隠し…、」


そんな非現実的な話があるわけないだろう。私は馬鹿げた発想をした自分の頭を軽く殴った。







何処か遠くへ


mokuji