委員長と悪魔 02


「見えるって、人なら、見えるでしょう」
「…あなたからはただの人間のにおいしかしませんね。なんなんでしょう」


会話が成立していないのを咎める前に、その人は私の首元に顔を寄せた。私は驚くことしか出来ない。


「な、なにを、」
「しかし、面倒臭いですね。生徒に見られたとなると、兄上に報告しなくては…」


首元から顔を離したその人は、考え込むように口を尖らせた。


どうすれば良いのだろうか、私は。取り敢えず、もう逃げよう。早く、帰らないと。


「あ、あの、大丈夫そうなので、私は、もう、」
「何処へ行くんですか」


立ち上がって直ぐに去ろうとすると、その人はギュッと手首を掴んできた。じっとこちらを見据えている。


「え、いや、寮、に」
「ボクに会ったこと、兄上に黙っていてください」


その人も立ち上がり、私と目線を合わせる。とは言え、この人の方が背が高いために私が見上げる形になっている。


というか、黙っていてって。


「あにうえって、だれですか」
「あなたの学校の理事長です」


これにもまた、驚いてしまった。確かに異様な格好の人だな理事長は、と思っていたが、弟までもとは。
しかし、記憶を蘇らせてみれば、確かに理事長も垂れ目で隈が濃かったような。


「り、理事長、の弟さん…」
「はい。絶対に言わないでください」
「分かりました、けど」
「タダでは駄目ですか」
「いえ、いや、そうじゃなくって」
「うーん、ならこれでお願いします」


話を全く聞かない弟さんは、ポケットから何かを取り出し、私に押し付けた。渡されたのは、ビニールで可愛く包装された棒キャンディー。
これを貰ったから、その代わりに理事長には黙っていろということなのだろうか。今は、此処は頷いておくのが賢いのかもしれない。


「これで良いですか」
「あ、えっと、は、い」
「では、お願いします」


全く表情を変えることなく、弟さんは高く飛躍した。そのまま近くの校舎の屋上に乗る。


えっ、そんな、まさか。


しかし、確かに屋上に着地していて、何事もなかったかのように歩いている。


「な、なんだったんだ、ろう」






遭遇
(未知からの報酬は、疑問とキャンディー)


mokuji