Trigger 02



知らないおじさんたちからいっぱい質問を受けたけれど、ひとつも分からなかった。頭が悪いわたしのせいだと、何回も謝った。そのたびにおじさんたちは心配そうな表情で、「大丈夫だよ。君は何も悪くないんだ」と頭を撫でてくれた。わたしはもう小さい子じゃないのに。泣いていないのになあ。


最後の質問だと言って、おじさんはとても真面目な顔をした。


「泉ちゃん、君がお父さんとお母さんを殺したのかい」


「殺す」という単語も知っている。生きているものを死んでいるものにするという行動だ。確かにわたしの「身体」が殺したけれど、正式にはわたしの頭のすみっこに居るひとだ。わたしではない。わたしは首を横に振った。


「ちがいます。わたしはおとうさんとおかあさんが大好きですから、動けなくなるのは嫌です」
「…ごめんね、こんな質問をして」


おじさんは目元に涙を浮かべた。最近はよくひとの泣き顔を見るものだ。しばらく知らないところで泊まった挙句、わたしはまた知らないところに行かされた。
そこには「孤児院」と書いてあった。聞き慣れない単語だと思ってその「孤児院」に居たおばさんに聞くと、親が居ない子を預かるところだと説明された。じゃあ、わたしはここに居てはいけない。わたしには親が居る。そう言うと、おばさんは首を振った。


「あなたのお父さんとお母さんは、もう、死んでしまったのよ」


どうやら、「死ぬ」とそのふたりは親ではなくなるらしい。じゃあ、あのひとたちは何なのだろう。でも、親でなくなってしまったのなら仕様がない。これからは親が居ない子として、成長しなくては。わたしは「孤児院」に来た夜にそう決心した。


それから一週間は「孤児院」で頑張って暮らしたが、ここはとてもつまらないところだった。いつでも毎日、あのおばさんやおじさんがわたしたちを監視しているのだ。その顔は笑っているけれど、本当に笑っているのか分からないような笑顔だった。それがとても不愉快だった。大人が居ないところでしか出来ない遊びだってあるのに。見張られているのはとても嫌だった。前にもこんなことを思った気がする。
わたしはこんなところで大人にはなりたくないと思って、早速夜中に抜け出した。意外と塀を越えるのが簡単だったので、上手くいった。


何処に行く当てもないけれど、取り敢えず歩き続けた。気が付くと山の中で、全く分からない暗闇にひとりぼっちになっていた。ちょっとだけ、怖い。だんだんと眠くなってきたので、わたしは木に背中を預けた。
明日には家に帰ろうと思い、瞼を下ろした。おやすみなさい。心の中で、静かに唱えて。



***




いつの間にか朝が来ていて、小鳥が動かないわたしの膝に座っていた。目を開けてそれを確認した。動きたいけれど、この子をもう少し見ていたかったので我慢する。
今日は家に帰って、それから何をしようかなあ。あ、小学校に行かないと。孤児院のひとたちは、何故だか小学校に行かせてくれなかった。小学校のことを尋ねると、孤児院のおばさんは「まだ心の傷が治っていないから、だめよ」と言ってわたしを部屋に閉じ込めた。
心ってなんだろう。傷を負うものなんだろうけれど、わたしはそのとき何処も怪我をしていなかった。痛くもなかった。おばさんにそう言うと、わたしの胸を指差してここにあると言った。
胸の奥には心臓しかないのに。心臓って心が付いているから、じゃあ心臓が心なのかなあ。そうだとすると、尚更怪我なんかしていないのに。理解してもらえないということがなんとなく分かり、わたしはとりあえず従っておいた。それでも、小学校の友だちには会いたかった。


膝の小鳥が、ぴちちと可愛らしく鳴く。動きたいけれど、動きたくない。もうそろそろ撫でても怒らないかな、と手を伸ばしかけたそのときだった。


突然、小鳥が騒々しく鳴いた。羽をばたつかせ、わたしの膝から飛び立つ。あ、行っちゃう。引きとめる必要はなかった。小鳥は、動きを止めたから。


真っ赤な液体を身体から噴出し、どしゃりと地面に倒れこんだ。もう鳴かない。どうやら、「死んだ」らしい。


mokuji