モーターサイクル 04

「昨晩は何をしていらっしゃったんですか」
「…此処を出た後は、付近を探索しておりました。外に出てみると全く見知らぬ場所だったゆえ。某も手伝うと佐助に言ったのですが、断固として拒否したので御座る。
 此方の空気は、何処か濁っておるよう感じました。それゆえに、無理をして倒れたのではないかと思いまする」
「…汚い空気を吸い過ぎたのでしょう。それに慣れない環境に来たが為に、身体がついていかなかった」
「おそらく、そうかと」


額に濡れたタオルを載せ、毛布をきちんと掛ける。起きたときの為に脱がされた服と、その他様々な武器を枕下に並べた。隣に座る青年はひたすら男を見つめている。


「…貴方のお名前を伺っても構いませんか」
「無論!某、真田源次郎幸村と申しまする」
「…真田、幸村ですか」
「いかがされましたか」
「いえ。此方の方は」
「猿飛佐助、真田忍者隊の長を務めております」
「…私は、峰木准といいます」


氏があるのですか。と尋ねてきたので、現代は皆が所持していることを告げる。氏名にそこまで関心はないのか、青年――もとい真田幸村は再び猿飛佐助に目を落とした。


「真田様、とお呼びした方が良いですかね」
「そんな、此処は峰木殿の屋敷に御座いまする。お気を遣われるなど」
「では、真田さん。猿飛さんが起きたときの為にも、粥を作っておきます。出来れば、真田さんは猿飛さんの隣に居てあげてください」
「承知致しました」


猿飛佐助が気を失っていることにより、幾分話し易くはなったとは思う。私は立ち上がり、キッチンの方へと向かった。此処からでも二人の様子は分かる。お茶でも出そうかと思ったが、彼らは戦国時代の人間(仮)なのだ。毒やらの心配があるだろう。猿飛佐助は忍者だと言っていたので、毒見くらい可能だろうと思う。彼が起きてから、それから飲食物は出すに越したことはない。気を遣うなと言っていたが、そんなことは無理に決まっている。


粥を火にかけながら、おにぎりを握ることにした。おにぎり程度であれば手頃だし、戦国時代にもあった筈だ。確か本に、白米は貴重だとかなんだとか書いてあった気がするが、家に麦はない。尋ねられたら説明しよう。二人を眺めながら、塩を振る。


しかし、面倒なことになった。部屋的な心配はないので良いが、文明機器や衣類の説明は必須である。それに、書斎にある本も戦国時代関係の本は隠さなければいけないだろう。それほど多くはないが、日本史が少しでも書いてあるものは撤去だ。未来を知るということは、避けた方が良いだろうし。


まずは買い物からしなくては。金銭面も心配はいらない。つい最近振り込まれたばかりだ。男物の服も、確か数着ならある筈だ。サイズも大きめだし、問題ない。
おにぎりを十個ほど作り終えたところで粥が煮詰まった。火を消して、緑茶の準備をする。


丁度注ぎ終わったところで、ジャストタイミング、猿飛佐助の呻き声が聞こえてきた。


mokuji